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第8章 三つ巴 18話 髙嶺の凶刃

第8章 三つ巴 18話 髙嶺の凶刃

最大値からすれば、相当消費しているとは言え、佐恵子のオーラ量は膨大だ。

真理は、その膨大なオーラを使わず、最大出力で発動させた【治療】で佐恵子のキズと体力の回復にかかる。

佐恵子は特異体質で、オーラを一定以上使い過ぎた日以降、オーラ量が一定値以上まで回復するまでの間、特徴的な症状に陥ってしまう。

真理は、その症状のことをわかってはいたので、佐恵子のオーラを消費するのをためらい、自身のオーラを使用し【治療】に使う。

【未来予知】を発動しながら、自分のオーラを使って【治療】を行っているので、当然、真理自身のオーラの難しい調整を余儀なくされる。

高度なオーラ使用技術が必要であるが、真理は何とか、その難行をこなす。

真理は、自身のオーラがガリガリと削られていくのを感じる。

できれば大きくメモリ消費する【未来予知】を解除したいが、あの奈津紀のスピードを考えると、【未来予知】を展開させていても対応できるか不安であった。

いつ奈津紀の矛先がこちらに向けられるか、気が気ではない。

それにしても、佐恵子のダメージは思いのほか大きく、あのモブが放った攻撃にしては、威力があり過ぎたのが気になっていた。

しかし、その詮索は後だ。

真理は佐恵子の回復に全力を注ぐことに集中する。難しいオーラのコントロールを強いられるため、額には汗の玉が浮き始めた。

能力全開の加奈子が、千原奈津紀を抑えている間に、佐恵子を回復させなければ、全滅する。それほどに、あの千原奈津紀という髙嶺の女の戦闘力は高い。

「あんなのがいるなんて・・」

真理は、内心の焦りを呻くように、言葉にして吐き出した。

真理自身、先ほど、奈津紀の剣の間合いに晒されたときに、その殺気の圧力に押しつぶされそうであった。【未来予知】で感知したときにはすでに、彼女の間合いの中だった。

はやく佐恵子を戦線復帰させ、敵から魔眼と呼ばれ、恐れられる力を振るわす以外に、あの千原奈津紀を撃退することは無理だろう。

その力を最大限発揮させるためにも、佐恵子のオーラは無駄にはできない。

近距離戦闘ではあの加奈子が苦戦しているほどの手練れである。はっきり言って、近接戦闘では佐恵子に勝ち目はない。

しかし、能力は使い手の、性格や性質、嗜好や相性などが大きく反映する。

佐恵子は加奈子に比べると、肉体活性能力こそ高くはないが、能力は多彩で、微弱ながら念動力も用いることができる。

だが、佐恵子の真骨頂は精神感応や思念同調系の複合技能であり、それらは、対象の精神や脳波まで操作し、至近距離であれば、対象を完全に支配化におけるほど強力な思念波を飛ばすことができる。また、味方には付与を、敵には呪詛ともなりうる反則的な技能を複数持っている。

佐恵子が目を使えるようになるまでは、急いで回復させなければと、真理は焦りを堪えながらも、【治療】に集中していた。

「か・・加奈子が・・・真理・・・面倒をかけ・・ますわ・・ね・・。まさか・・あんな雑魚に・・遅れを・・とるなんて・・」

「今は気にしないで・・もうすこしよ・・佐恵子・・・」

「彼女は・・千原・・奈津紀・・。・・髙嶺の幹部の一人・・髙嶺弥佳子の側近・・。刀を持ち歩く時代錯誤の違法集団・・ですわ。たしか、なんとか無念流とやらの使い手です。・・・こんな時に・・まさか・・髙嶺の登場とは・・・」

随分と顔色が戻った佐恵子が、加奈子相手に、刀を振り回して、応戦している女性を見やりながら、真理のひざ元で呟く。

【治療】を発動しながら、加奈子と奈津紀の超人的な攻防を見ていた真理は、佐恵子を気遣いながらも、自身の周囲を【未来予知】で警戒を怠らない。真理自身もそうだが、今の佐恵子を攻撃されてしまっては、元も子もなくなる。

「きゃう!」

加奈子の悲鳴で、真理は顔を上げ悲鳴の方向を見る。

「スピードが落ちてきましたし、動きが荒くなってきました」

奈津紀の振るう和泉守兼定が加奈子の胸部を走ったのである。奈津紀は刀を握りなおし、上段に構えながら、静かにそう言った。

「はぁはぁ・・まだまだよ!」

白刃が走った胸部分に手をやり、斬れてはなく、ダメージもないことを確認しながら、加奈子が気合を振り絞る。

「行きますわ!真理」

これ以上、加奈子一人に奈津紀を、押し付けておくのは危険だと感じた佐恵子が、飛び起きた。

体力は半分程度の状態だが、痛みはもう感じない。完全回復には程遠いが、これ以上寝ているわけにはいかない。

「ぁ・・」

オーラをほぼ使い果たし、額に汗を浮かべ、力尽きかけた真理の制止する声は小さく、佐恵子には届かなかった。

佐恵子は加奈子の横に並び構えると、目に力を集中し始めた。

「支社長・・よかった・・大丈夫ですか?」

加奈子は、横に並んだ佐恵子に安堵した表情で声をかける。

「魔眼佐恵子・・?瀕死であったはずですが・・・あれほどの深手を、・・素晴らしい回復能力ですね。」

奈津紀は、回復した佐恵子と、後方で、肩で息をして蹲っている真理を見比べ、純粋に称賛を送る。

「加奈子!お願い!もう少し頑張ってもらいますわ!・・・【拳気】・・!!【疾風】・・!!」

佐恵子は、奈津紀の発言を無視し、増幅し練ったオーラを、加奈子に向けて発動させる。筋力と反射速度を外側から活性化させる付与を加奈子に送ったのだ。

「うっ!」

加奈子は、ドクンと身体を震わせせると、オーラが一気に体内に流れ込み、力が漲るのを感じる。

「あなたにはこれですわ!くらいなさい!【恐慌衰弱呪】!!!」

続けて、佐恵子は奈津紀に向き直り、張慈円を苦しめた呪詛より凶悪な技を飛ばす。

佐恵子の両目から発せられた、禍々しくどす黒いオーラの塊が奈津紀目掛け襲い掛かる。

しかし、そこに奈津紀の姿はなく、予想外の方向から抑揚のない涼し気な声が聞こえた。

「何度も回復されては面倒ですので、先に始末させていただきました」

戦慄した二人がほぼ同時に降り返ると、そこには刀を持った奈津紀が立っており、その足元にはうつ伏せで、真理が転がっていた。

技を発動させる一瞬の隙を突かれ、後方の真理のところまで、一気に間合いを詰められたのだ。

オーラを使い果たし、無防備な真理は、千原奈津紀という抗いがたい強敵に対して、もはや対抗するカードを持たず、成す術もなく一刀のもと打ち据えられていた。

「ま、真理・・・?」

佐恵子自身も大技を空撃ちしてしまい、ゼェゼェと呼吸しながら、うつ伏せでピクリとも動かない真理に、佐恵子が震えた声で呼びかける。

「てんめぇぇぇーーー!!」

能力全開に加えて、佐恵子からの付与を掛けられた加奈子が吠えながら、突進する。

「中々の速さっ!」

予測を上回る速度で迫る加奈子に、奈津紀が白刃を光らせ構えるが、一瞬の油断を突かれ、刀の間合いではなく、拳の間合いまで近づかれてしまう。

「加奈子!援護しますわ!」

勝機と見た佐恵子も、ガス欠気味の身体にムチを打ち、2対1で奈津紀を一気に追い込もうと、目に力を集中しつつ、身体活性を限界まで発動させ、突進しようとした瞬間、視界の外から声を掛けられた。

「てめえの相手は俺だぁ!」

驚いた佐恵子は、声の方向に顔を向けると、そこには再び彼がいた。

茂部天牙である。顔や頭からは出血しており、顔は埃と汗と血に汚れているが、目には闘志が宿っている。

「ハァハァ・・あ、あなた・・。あなたなどに構っている暇はありませんわ!取り込み中です!失せなさい!」

加奈子から、あれほどの攻撃を受けたというのにモブのオーラは多すぎることが、多少気にはなったが、佐恵子は面倒そうにモブに言い放った。

「知るか!行くぜ!」

そう言うが早いか、モブは疾風怒濤の勢いで佐恵子に肉薄する。

佐恵子は声が出せなかった。口の形が「え」を発音する形をとっただけである。

「っっぐぅ??!!!っっっっっっ!!!」

モブは金属の格子状の床を踏み抜く勢いの踏み込みで、背中と肩を同時にぶつける体当たりを佐恵子に食らわせ、左足を軸に後回蹴りで佐恵子を蹴り飛ばす。

モブに蹴られた衝撃で、佐恵子は、口から血をまき散らし、長い髪を激しくなびかせながら、きりもみ状態で飛んで行き、壁に激突した。

「おお・・」

感嘆の声を上げたのは、佐恵子に【恐慌】をかけられてた張慈円であった。

つい今しがたまで、ひどい二日酔いのような症状と、全身の倦怠感と悪寒に襲われていたのが、嘘のようになくなっていた。

宮川佐恵子はモブの攻撃を受け、完全に気を失ったのである。結果、張慈円に掛けていた能力も霧散したのでった。

「し、支社長―!!」

佐恵子が飛んで行った方に向かって加奈子が叫ぶ。

加奈子は、佐恵子のところまで一気に飛ぼうと力を籠め、跳躍しようとするも、付与されていた【拳気】と【疾風】もすでに霧散していたため、自分自身の急な動きの減退に狼狽する。

「っ!・・しまった」

佐恵子によって付与されていた、筋力と反射速度が失われ、肉体と感覚のバランスに大きく誤差が生じた加奈子は、大きく態勢を崩してしまう。

奈津紀ほどの達人にとっては、それは、大きすぎる隙であった。

「人の心配をしている場合ではありませんよ」

口元に薄く笑みを浮かべ、加奈子の隙を見逃さずに、そう言うと、奈津紀は愛刀和泉守兼定を加奈子目掛けてヒュン!と空気を切裂き唸らせる。

加奈子の対刃スーツのファスナートップが弾け飛び、ファスナーの下限である臍下まで、一気に切裂かれる。

斬られ弾け飛んだ、ファスナートップが金属の格子床に落ちチン!と澄んだ音を立てた。

澄んだ音と同時に、窮屈そうに納まっていた加奈子の豊満な双丘が、勢いよくこぼれ、真っ黒なスーツの中から、真っ白な肌とピンク色の突起が露わになった。

驚くべきことに奈津紀の剣先は、肌をキズ一つ付けず、耐刃性能の薄いファスナー部分のみを、見事に切裂いたのであった。

ファスナー部分を失ったスーツは左右に開ききり、服の様相をなしてはいない。

激しく動き回っていた加奈子の白い肌は、激しく呼吸している為、胸や腹部は女性らしいラインを一層際立たせている。

呼吸で、動くたびに汗で濡れた肌は、倉庫の薄暗い照明を跳ね返し、その場とのギャップがエロティックさを助長させる。

加奈子がはだけた服を掴み、自らの胸を隠さないのは、奈津紀によって、首筋ぎりぎりに突き付けられた刀のせいであった。

「くっ・・・ぅ」

「チェックメイト・・・中々頑張りましたが、ここまでです。」

顎をのけ反らせ、首から臍までを露出させられた加奈子が、悔しさと無念さで僅かに呻き、奈津紀は、無表情で抑揚のない声で勝利を告げた。

【第8章 三つ巴 18話 髙嶺の凶刃終わり】19話へ続く

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第8章 三つ巴 19話 地獄に和尚

第8章 三つ巴 19話 地獄に和尚

「そいつもそこへ連れて来い!」

張慈円は倉庫の1階から、中二階で倒れたままになっている真理を指さし、モブに指図する。

「はい!わかりました!」

モブは汗と血で汚れた顔ではあったが、元気よく返事すると、倒れた真理のところまで、カンカンと格子床を鳴らして駆け寄っていった。

「手伝ってやるよ・・」

加奈子に蹴られ、腹を痛そうに摩っていた劉も、手を貸そうとモブに続く。

モブに蹴り飛ばされ、麻袋の束に埋もれていた佐恵子は、アレンによって引きずり出され、倉庫のコンクリートの床で、うつ伏せにされ、ワイヤーロープで縛られようとしていた。

張慈円の指示でアレンは、佐恵子の目を封じるように命令されているのである。

アレンは嬉々として頷き了解したのであった。

アレンは意識が朦朧としている佐恵子の長い髪の毛を引っ張り、身体を逸らさせると、乱暴にワイヤーロープで両目を覆い隠すように巻き付けだした。

「や・・やめて・・・!お願いだから・・乱暴にあつかわないでぇ・・」

アレンは、すでに後ろ手で拘束され、あわあわと半裸で嘆願する加奈子を下卑た表情で眺めながら、佐恵子の後頭部をガッと踏み、ワイヤーローブで顔を擦るようにして食い込ませ、ギリギリと音が鳴るほど引っ張り食い込ませた。

「う・ぅ・・!!や・・やめ・・」

ワイヤーロープで目を押しつぶすように塞がれ、ささくれ立った針金が、佐恵子の顔や肌を傷つける。

佐恵子は、顔に巻かれたワイヤーを取除こうと手を伸ばすが、その手には力がなく、食い込んだワイヤーに、指でカリカリと爪立てるだけしかできていない。

力をほとんど使い果たしたうえ、モブによる攻撃で意識が朦朧としている佐恵子は、アレンにされるがままで、僅かに抵抗を口にするのがやっとである。

麻袋を荷締めするために使われていたのであろう、埃だらけで、ささくれ立ったワイヤーロープを、目隠しのように巻き付け、後頭部できつく真結びを施し終わったアレンは加奈子に言い放つ。

「オマエガモット、ショウフノヨウニ、ジョウズニオネガイデキテリャ、カンガエテヤッタンダガナ。フハハハハ!」

そう笑うとアレンは、ワイヤーを取除こうとしていた佐恵子の両手を、黒い大きな手で掴み、佐恵子の背中まで回し、肩甲骨付近まで持ち上げ、まだまだ余長のあったワイヤーロープで両手首を手の甲が当たるように拘束してしまった。

「がっ!・・うくぅ・・!ぐぅ!・・く・・ぅ!はぁ!!・・ぁ・・はぁはぁ!」

佐恵子の手首は、ほぼ首の後ろぐらいまで引き上げられ、ヒジとヒジがくっつきそうなほどだ。

手を戻そうとすると、顔に巻き付いたワイヤーで顔がのけ反らされ、佐恵子が息苦しそうな声を上げている。

「ひ、ひどい・・こんな縛り方・・・緩めてあげてぇ・・」

後ろ手で縛られた加奈子が、こぼれた胸を隠すこともできず、アレンにすがるように嘆願するが、勝ち誇った顔でアレンは加奈子の両乳首を乱暴に摘まむと、乳房が伸びるほど引っ張りながら言い放つ。

「ハハハハ!オマエラ、イイザマダ!・・・イマカラ、フタリトモタップリカワイガッテヤルカラナ!イタイカ?!イナガキ!!・・・オレサマハ、モットイタカッタゾ!!」

「痛っ!!!!・・・っく・・解いて・・あげて!」

「ダメダナ!チョウノダンナノ、キョカガアルマデハ、ガマンシテヤルガ・・・・ソウダ!!コイツモ、オマエト、オナジヨウニ、ペアルックニ、シテヤルカ」

アレンは佐恵子の服のファスナートップを摘まむと、一気にずり下げ、さらに襟をつかみ、肩を露出させるように思い切り開いた。

汗に濡れ、掘りの深い鎖骨を露わにして、佐恵子の膨らみの乏しい双丘が露わになる。

「ハハハハ!コドモナミダナ、オイ!」

床に転がされ、両目をワイヤーロープで塞がれた佐恵子は、露出させられた胸を隠すこともできずに、苦しそうにゼェゼェと呼吸をしている。

「も、もうぅ・・・」

加奈子がアレンを非難するような声を控えめに上げながら、縛られて不自由な身体を、佐恵子に重ねて、佐恵子の胸が隠れるように覆いかぶさる。

上半身を臍下まで、露出させられ、ワイヤーのない顔部分は埃で黒く汚れ、鼻血を垂らしたままの佐恵子には、普段社内で権勢を振るっている、姿からは想像もできなかった。


「どうするのです?」

奈津紀は、アレン達からすこし離れたところで、アレンや佐恵子たちのやり取りを眺めながら、張慈円に向きなおって質問する。

「交渉に使う・・。これ以上の材料はないだろう。その前に、たっぷりと楽しませてはもらうがな」

簡潔に、だが、好色な顔で張慈円は答える。

「それは、少々問題です。ですが、いま私が聞いているのは、我ら髙嶺に依頼していた件のほうはどうか・・。と聞いているのです」

奈津紀は、佐恵子たちを眺めながら答える張慈円の好色な表情を、侮蔑しつつも顔には出さず話を進める。

「むろん依頼する。電話で話した通りだ。宮コー本社が本腰をいれてくると、まだまだ能力者を送り込んでくるだろうからな。本国から離れて活動している俺たちだけでは人手不足だ。手伝ってほしい。宮川は能力者も多いし、どいつもこいつも、まともな訓練を受けているせいで侮れんからな・・。金額は先日提示した通りでいいのだな?。・・・・・今回の件で、我らも痛手を被ったが、あの宮川昭仁のガキを捕らえることができたのは、幸先がいい。人質としても最高だ・・・くくく」

奈津紀は、遠目に唯一まともに意識のある加奈子を一応警戒はしつつも、機嫌の良さそうな張慈円に、当然の要求をする。

「さようでございますか、承知いたしました。張慈円様の意向は分かりました。ですが、まだ依頼を受けるかどうかは私としても不明です。此度の会合にて、話し合いの上、党首に報告し決定していただく流れになるかと存じます。加えて、この度の一連の騒動も報告いたします。・・・・つきまして、依頼前でしたが私の独断で魔眼佐恵子は捕らえるべしと判断し、結果的に張慈円様に手を貸しました。・・・彼女を捕獲できたのは私の働きあってのことです。速やかに宮川佐恵子の身柄は当方にお引渡しくださいますように」

「な、なんだと・・!あいつの身柄を抑えなければ、そもそもの目的が達成できん!宮川を湾岸開発から完全に撤退させ・・」

「香港三合会に属する新義安のみで、日本関西の空と海からもたらされる利益を、牛耳る目的が達成できない・・・と言いたいのですか?・・・新義安頭領の張慈円様」

「きさま・・!」

「まだ、宮川を退場させるには早すぎます。裏社会で生きているあなたたちでは、宮川のように堂々と事を進めることは不可能ですからね。特に、魔眼はピースとしては外せません。味方につけるか脅して利用するか・・いずれにしても、打ち出の小槌を完成させるまでは必要です。宮川にも彼女ほどの能力者は、そう多くいません。そう言った意味で今回捕獲しました。いったい誰が魅了や操作を使わずに計画を進められるというのです」

「そんな心配は・・」

「あります。あなた方のやり方では、打ち出の小槌を完成させる前に、宮川に完全に敵対行動をとられ、あなたの組織を徹底的に潰しに掛かかられるでしょう。そんな無駄な時間を費やされるのは、ぜひともご遠慮願いたいものです」

「・・・新義安もずいぶんと、甘く見られたものだな」

張慈円からオーラが立ち上り、殺気が充満する。

しかし、奈津紀は僅かに眉を顰めはしたが、ほぼ無表情なポーカーフェイスで話を切り返す。

「それはそうでしょう。私が手を貸さなければ、負けていた。・・・・そうですよね?確かに、彼女は、宮川の最大戦力の一人です。護衛の二人も、さすがと言える腕でした。・・・・・・しかし、新義安頭領の張慈円様が、魔眼佐恵子が相手とはいえ、負けたという噂が流れるのは不都合がありませんか?・・・それとも、商談はご破談。彼女の身柄を争って、今から、私を相手に戦ってみますか?」

奈津紀は左手の親指を鍔にかけ、僅かに押し上げる。

ポーカーフェイスな表情とは裏腹に、奈津紀から刺すような鋭いオーラが発せられ、奈津紀を中心に5m程度、ひと呼吸一太刀可能な範囲でオーラが広がる。

「ぐ・・・!」

「・・そういうところは好感が持てます。せいぜい利口に生きることですね。宮川のように欲張らず、一組織のみで独占しようとさえしなければ、我らの党首も鬼ではありませんよ」

奈津紀の指から力が抜け、キン!と澄んだ音をさせて、鍔が鞘に落ちる。

張慈円は発していたオーラを抑え、苦虫を噛み潰したような顔になると、佐恵子たちのほうを見やる。

「・・・しかし、あいつらには俺の組織の人間が少なからず世話になっている。少しばかり、可愛がるぐらいは構わんだろう?」

アレンに半裸にさせられ、胸を弄ばれている佐恵子と加奈子を見ながら、張慈円は問いかける。

「・・・・時間がかかる事は遠慮願いたいですね。本日中には帰りたいので」

流石に、張慈円の好色ぶりに疲れたような声で奈津紀が答えると、聞いたことのない声が倉庫内に響いた。

「心配あらへん!時間はとらせえへんで!!」

気配を消し、限界まで近づいてきていた豊島哲司は乱雑に置かれた木箱の隙間を駆け抜け、張慈円目掛け渾身の右ストレートを放つ。

「おっ!・・・お前は!昼間の!」

不意を突かれた張慈円は、とっさに癖で左手を使い防御してしまう。
しまった・・・。と思った時にはもう遅い、昼間哲司に殴られ、左手の骨にはヒビが入っていたのだ。

「ぐぁ!!」

傷を負っていた左手で、再度哲司の強打を受け止めてしまう。

「うぉぉぉぉぉりゃああ!」

哲司が攻撃する寸前、三出光春は倉庫の入口付近から、長さ4mほどの木の角材を槍投げの投擲のようなフォームで、掛け声と当時に張慈円目掛けぶん投げる。

角材は、うなりを上げて一直線に進み、殴り終えた哲司の十数センチ横をかすめ、張慈円に直撃する。

哲司の攻撃を防御しきれず、後ろに吹っ飛んでいる張慈円に、更に木材の柱が突き刺さったのだ。

「ごっ・・・がっ!!」

木の角材は、張慈円にぶつかった衝撃で砕け散り、衝撃の大きさを物語る。張慈円は後方に吹っ飛び、麻袋の束の中に突っ込んだ。

「次はアンタが寝る番よっ!」

角材の投擲と同時に黄色い掛け声が響き、天窓から降ってきた寺野麗華の延髄蹴りがアレンにさく裂する。

「ゴアアアアアア!」

耳障りな悲鳴を上げながらアレンが、悶絶し倉庫に置かれていた木箱を壊しながら転倒する。

「あ、あなたは・・・あなたたちは?誰でもいい・・解いて!この縄を・・・!」

加奈子はいきなり現れた、自分より年上であろうと思われるが、若い服装をした女性に、縛られた後ろ手を見せながら言った。

「私、菊沢探偵事務所の寺野麗華!あなたが宮川さん?」

「そう!違うけどそう!私は稲垣加奈子!宮川の人間よ」

「聞いてるわ稲垣さんね!」

麗華はそう言うと、加奈子の手の拘束を解く。

「ありがと!向こうの二人も仲間?」

加奈子は佐恵子の拘束を解きながら、麗華と名乗る年上の美女に尋ねる。

「そう!あいつら二人にかかったら、さすがの張慈円も・・と思うんだけど」

「上にも・・!敵がいるわ・・私の仲間もいるの!」

簡単に麗華に説明しながら、佐恵子を拘束していたワイヤーロープを解いたり、引きちぎったりしながら、ようやく佐恵子を戒めから解放する。


「・・・(これほどの手練れがこの人数ですと、さすがに全員を始末するには私も相当消耗しそうですね。。。魔眼佐恵子だけでも何とか持ち帰りたいところですが・・・)」

奈津紀は見慣れぬ、しかもかなりの手練れと思われる3人の侵入者に、成り行き上ではあるが、思わぬ大きな収穫(佐恵子)を得たと思っていたのに、その収穫を持ち帰るのには、かなり骨が折れそうと思い、こんな所で怪我も負いたくないので当初の目的(張慈円との商談)だけ果たして帰る事だけになるかも知れない。佐恵子は持ち帰れそうなら隙を見て持ち帰るかとすぐさま気持ちを切り替えていた。

そして、当然この場に居たのだ。張慈円の一味とみなされ、攻撃はされる奈津紀ではあったが、哲司が攻撃してくる瞬間に、倉庫の鉄骨の梁の部分まで、跳躍していたのである。階下と中二階を見下ろしながら、階下で暴れる突然の闖入者たちのかなりの手練れと思われる3人の戦闘力を冷静に分析する。

「面倒な・・」

奈津紀は、一言そう言うと、倉庫の窓から更に面倒事が近づいてきているのが目に入り、もう一度同じセリフを口にしてしまう。

赤いライトを光らせながら、数台のパトカーがこの倉庫目掛けて、迫ってくるのが見えたのだ。

「ほんとうに面倒ね・・」

奈津紀が、中二階に目を移すと、すでに加奈子と闖入者の女によって、モブは1階に蹴り落され、ピクリとも動かない。

青龍刀を香奈子によってすでに破壊された劉も、本来の力を発揮できず、闖入女の猛烈なキックラッシュで防戦一方に陥り、蹴りを防御し、たまらず階下に落下する。

張慈円はとみると、瓦礫に突っ込んだようで、もうもうと埃が立ちあがりよく見えない。

「仕方ありません・・しかし、せめて魔眼だけでも・・・」

奈津紀はそういうと、梁から倉庫の天井ギリギリまで飛び、佐恵子に狙いをつけると、空中で一回転し勢いをつけ、刀を閃かす。

とはいっても、殺すつもりはない。身体に刃が届く寸前で刃を返し、打撃ではなく「斬られた」と思い込ませることによって、戦意を断つつもりだ。

完全に気配を消しての落下攻撃であったが、割れた天窓から月の光が差し込んでおり、奈津紀の影が地面に映る。

オーラもほぼ尽き、満身創痍であったが、佐恵子は影に気付いていた。

振り返り、奈津紀を仰ぎ見る魔眼には、最後のオーラを振り絞った光が宿っていた。

「むっ!・・・」

奈津紀はとっさに、思念防御を展開し、魔眼の攻撃にそなえつつも、佐恵子の右肩に狙いを定め落下する。

「こ、これでも・・くらいなさい!」

そう言うと、フラフラの佐恵子は本当に最後の力を振り絞り、能力を発動させる。

【眼光】

佐恵子の目が眩い光を放ち、一瞬だが倉庫全体が真昼より明るくなる。

佐恵子の使える技能で、オーラ量をあまり消費しない目晦ましの技である。大技を使うにはガス欠であったし、今の集中力では発動に時間がかかりすぎる為、消去法で選んだ結果だが、最も効果的な技と言えた。

「くっ!目眩ましですか・・。このような小細工無駄です!」

眩い光を一人だけ一身に浴びた、奈津紀は佐恵子が放った眩い光に、視力を一気に奪われる。

しかし、すでに佐恵子の立ち位置は完全に把握している。

それに、そこからどう動くかも、五感を研ぎ澄まし、ほぼ正確に予測できた。

「はぁ!!」

ほぼ目の見えていない奈津紀は、必中の確信をもって、佐恵子の右肩目掛け刃を振り下ろす。

そして刃が当たる寸前に、峰打ちにすべく、刃を返そうとする。

しかし、その刃を返せなかった。

振り下ろした刀は音もなく、何者かの手によって、受け止められていたのだ。

奈津紀は眩んだ目を、眩しそうに開けると、そこには先ほど張慈円を殴り飛ばした男が、刃を両手で受け止めていた。

「うぉぉぉ・・・・ぅ!・・デキるとは思とったけど、実際にやるんはめっちゃ怖いな」

「莫迦な・・」

奈津紀と佐恵子の間には、先ほど張慈円を殴り飛ばした男が入り込み、奈津紀の振り下ろした和泉守兼定を両の掌でガッチリと挟み込んでた。

佐恵子を殺さないように手加減した一振りとは言え、斬撃を白刃取りされたことに、驚きと屈辱の感情が一瞬だけ胸を焼くが、冷静に、刀を奪われまいと、刀を掴んでいる男の両手、目掛け蹴り抜き、同時に刀を引き抜く。

「痛てっ!」

手首を蹴られた男が、なにか場違いな声を上げているのが、下の方で聞こえたが、奈津紀は倉庫の梁まで跳躍し、続けて天窓に跳躍しそのまま夜の闇に消え見えなくなった。

「なんやったんや・・・大変な太刀筋やったで・・ようまあ受け止めれたもんや・・・あんな鋭いと知っとったら、前に出られんかったかもしれん・・あれも橋元の一味なんやろか・・」

哲司は、刀を振るうムチムチのスーツ姿の美女が、蹴った瞬間と、梁に飛び移った瞬間のパンチラをしっかりと脳裏に記憶しながら、振り返ると、尻もちをついて、細い目を見開きハァハァと荒い呼吸をしている佐恵子に話しかける。

「・・っと。大丈夫か?あんたが宮川さんやな?・・立てるか・・?」

哲司は佐恵子に向かって手を差し伸べ、佐恵子も哲司の手を取ろうと手を伸ばす。

「支社長~!!」

哲司は佐恵子に抱き着いてきた加奈子に押しのけられ「うぉ!」と声を上げた。

「なんやねんな・・」

「菊沢事務所の豊島さんですね?この度は本当にありがとうございます」

「あ、ああ・・あんたが姐さんの言ってた神田川さんやな?あんたも無理せんでええで?ふらふらやないか」

麗華に支えられた真理が脇腹を抑えながらも、丁寧な口調で深々と頭を下げながら哲司にお礼を言う。

「哲司~・・あかんわ!張慈円のカス見当たらへん。相当なダメージのはずなんやが、手下ともどもも、逃げてもたわ。外は真っ暗やし、バラバラで追いかけるんは無理や・・それに、ここにはお嬢は・・・おらんようや・・・神谷さんも・・・くそっ!」

「そこに一人倒れてるじゃない。あとで美佳帆さんに拷問してもらうし、とりあえず縛っとく?」

張慈円が突っ込んだ瓦礫の中をかき分け、見当たらなかったことをモゲこと三出がぼやくと、麗華が大の字で床に転がっているモブを親指で指しながら言った。

「ああ、たのむわ。しっかし、また張に逃げられてもたなぁ・・ここにはモゲが調べた限り、お嬢も神谷さんもおらんようやし・・・姐さんに報告しにくいわ」

頭をガリガリとかきながらスマホを取りだし、画面を操作していると、操作している腕を佐恵子にちょいちょいとつつかれた。

「こ・・この度は・・あなたがいらっしゃらないと・・わたくしの命はありませんでしたわ・・。あの・・本当にありがとうございました・・」

「お、おぅ・・なんやそんなん気にせんでええで?」

振り返り見下ろすと、顔じゅう傷だらけだが、哲司にとっては、なかなか好みの顔をした佐恵子が、哲司を30cmと離れていない距離から見上げながらお礼を言ってくる。

哲司は内心ドギマギしながらも、できる限り平常心で答えるが、すぐ隣で見ていた麗華が「ヒューヒュー♪」とわざとらしく合いの手を入れる。

「あほ姫!何言うんや」

「でもさあ・・和尚。あんな登場されたらさ、女の子なら誰だって、そうなっちゃうって。私だってそう言うの憧れちゃうもん。それがたとえ和尚だとしてもさ?白馬の王子様と勘違いしちゃうのはしょうがないよ」

「おまえはいちいちトゲトゲしいな!たとえ和尚だとしてもってなんやねん!黙っとけ!」

哲司と麗華の漫才のような掛け合いを見ていた佐恵子は、ポケットから小さな紙を取り出すと、そっと哲司の手を取り握らせ、哲司だけにわかるように目配せすると、すっと哲司から離れた。

「おーい。団体さんのお着きやで。面倒な事情聴取が始まりそうやけど、とんずらするわけにはいかんのやろ?」

倉庫の入口のほうでモゲこの三出光春が集まりつつあるパトカーを指さしながら、みんなに問いかける。

「そやな・・警察ならあとで大塚さんに連絡してもろて、なんとかなるやろし、このまま待機やな」

哲司はこのまま自分たちだけが去り、ボロボロの宮川の連中を置いていくのはかわいそうに感じたからでもあった。

「全員動くな!両手を頭の上にあげてその場に跪いて!錦君!武器を持ってないかチェックして!」

「了解!」

拳銃を構えた女の号令で、警官隊が周囲を囲む。全員油断のない動きで、哲司たちの周りを包囲しだし、中心にいる女が、きびきびと部下に指示を出している。

「おいおい、こいつらいきなり拳銃構えてるで?」

モゲが両手を上げながら、制服を着た警官たちをみてそう呟く。

「政府直属特別捜査官の霧崎美樹です。私の権限で発砲できます。おとなしく指示に従ってください!」

警官隊が照らす照明の逆光でよく見えないが、女は仁王立ちで手帳をかざし名乗りを上げた。


【第8章 三つ巴 19話 地獄に和尚終わり】20話へ続く

第8章 三つ巴 20話 能力者集団結成

第8章 三つ巴 20話 能力者集団結成


佐恵子は、パトカーの後部座席で体の大きな警察官と、指揮を執っていた女性捜査官に挟まれるようにして、長時間座る羽目になり、力を使い過ぎた疲労は限界まで達していた。

隣に座った、お堅い捜査官からは質問攻めにされ、さすがに辟易していたところだ。

「・・・着替えたいですわ」

質問に疲れてきた佐恵子は、ポツリと呟いた。

隣に座る捜査官は、形の良い綺麗な眉を、片方だけピクンと跳ね上げたが、佐恵子は気にする気にもなれなかった。

たしか、霧崎何某と名乗っていたが、心身の疲労は限界に達しており、覚える気にすらならない。

その霧崎美樹は、佐恵子に気づかれないようにため息をついた。

そのとき、霧崎が座っている側の窓ガラスがノックされた。

パワーウィンドウを開けた霧崎が、目で促すと、ノックした若い捜査官は「これを」と言って、霧崎に資料を手渡す。

「先ほども、申し上げましたが、弁護士を通してお話させていただきます。・・・この場で、お互いの言質も取らず発言するほど、素直ではございませんの」

佐恵子の発言を聞きながら、美樹は資料に書かれている内容に目を走らせる。

資料から顔を上げた美樹は、一瞬だけ眉間にしわをよせると、佐恵子のほうを向いた。

「結構です。宮川さんでしたね。では、後日会社のほうにお伺いさせていただきます。長時間おつかれさまでした」

「・・・ええ、お疲れ様」

先ほどまでのしつこい質問責めから一転し、あっさりと佐恵子は開放された。

パトカーから出ると、加奈子と真理、門谷さん、それに支社の警備部門の人たちも大勢もいた。

(なるほど、門谷さんが手を回してくれたのね)

疲れた顔ではあったが、みんなに笑顔を向けながら、門谷さんだけには目礼を送る。

「支社長!」

加奈子が呼びながら、近づいてくる。真理もヨタヨタと近づいてきており

「佐恵子・・。顔の傷も力が回復したら治しますからね・・」

真理が顔の傷を摩りながら、安心させてくれる。

「ええ・・、ありがとう。心配かけたわね・・。とりあえず今日は帰りましょう。明日の朝反省会をしましょう・・」

佐恵子がいつもの速度ではない速度で歩を進めながらそう言うと、

「ええ、きっちりと反省会をしなければいけませんね」

と、話の途中で珍しく門谷さんが割って入ってきた。

門谷さんになんの説明もなく、私や加奈子や真理が満身創痍になっているのだ。説明をしないわけにはいかないなと思い、素直に謝罪を口にする。

「・・ごめんなさいね。門谷さん。あとで説明しますわ」

佐恵子は、珍しく素直に謝罪すると、

「ええ、しっかりと説明をお願いします。・・・ですが、いまは休養が何よりも急務のようですね。滞りなく手配しておりますので、こちらの車にどうぞ」

と、門谷さんのすこし険しかった表情が、いつもの営業スマイルにもどると、普段は使わない普通車のミニバンに乗るように促す。

佐恵子、真理、加奈子が一言ずつお礼を言いながら、車に乗り込む。

車に乗り込にシートに身を沈め、窓から外を見ると、菊一事務所の連中が、若い捜査官を中心に警官に取り囲まれ、事情聴取されていた。

そこに、霧崎が加わり、更に質問をされている。

凶刃から私を守ってくれた織田裕二似の人、ニコラス・ケイジに似た、頭髪が後退した顔の濃い男、黙っていれば木村文乃に似ている豊満な肉体をしたお転婆な女・・・。

菊一探偵事務所の、その3人がジェスチャーを交えて、身振り手振りを交え、大げさに説明している様は見ていて、何となく笑えてしまった。

佐恵子はひさしぶりに、【感情感知】を発動していない。オーラが無くなり過ぎて、発動するのも億劫なほど消耗していたためだ。

だが【感情感知】を使わなくても、何となく彼らが善人であることは、その様子を見ていると伝わってきた。

車の窓は閉まっているし、距離も少し離れているため、会話は聞こえないが、その様子を、佐恵子は疲れ果てた表情で、しかし優しい声で、

「貸しを返さないといけませんわね」

「ええ、そうですね」

何気なく呟いてしまった発言に、真理が追従してくれた。

「支社長、あのかなり腕の立つ熱血男に何か渡してましたよね?」

「え?いえ、なに?なにも?」

加奈子の質問に内心ドキッとし、さすがに獣並みの感覚を持った加奈子には気づかれたか・・と思ったが、とっさに、嘘をついてしまった。

「ええぇ~?支社長~なにか白いの渡してたじゃないですか~」

「名刺よ!名刺を渡しただけ!危ないところを助けてもらったわけですからね・・。連絡が取れなかったら後でお礼も言えないじゃない」

「ふぅ~ん・・・。じゃあ、いまなんで嘘ついたんですか?支社長のそういう反応珍しいですよね・・・」

「う、うるさいわね」

自分の顔が少し、紅潮してしまっていることを悟られまいと、外を眺めたまま加奈子に返す。

その様子を、真理がクスクスと笑って眺めていたところに、運転席に門谷さんが入ってきた。

「そろそろ、出発します。前後をうちの警備の車が走るので、そんなにスピード出ませんけど、20分ほどで保養施設に到着します。もちろんそちらの警備も万全ですので、ご安心ください」

いそいそとシートベルトを閉めながら、説明してくれる門谷さんを見ながら、「ええ、ありがとう」と謝辞を述べたと同時に車は発進した。

佐恵子は車内の時計に目をやるとデジタルは、PM22:10と表示されていた。

こんな時間だというのに、スーツをきっちと着こなし、てきぱきと仕事をこなしてくれる、門谷さんにお礼を言うと、佐恵子は過度の疲れから、すぐに微睡んでしまった。

翌日、

「ふぅ・・やっと帰ったわね・・・」

日は明け、昨夜とはまた別の意味で疲弊した表情で佐恵子が呟くと、

「仕方ありません・・。スマートに片づけられなかったせいで、大事になってしまいましたしね」

と佐恵子同様に疲弊しているが表情には出さずに真理は答えた。

「朝は、門谷さんにも説明させられましたしね・・。疲れました」

と、加奈子も2人と同様に疲れている意志を示す。

2階の応接室から階下を見下ろし、霧崎美樹と錦雄二が正面玄関から出ていく様子を確認すると、嘆息が混じった発言をしながら背伸びした。

雨宮雫、楠木咲奈という従業員を保護していると連絡があり、引き取りに行ったのだが、保護ではなく軟禁されており、引き取りに行った我々に対しても襲ってきたので、必死に抵抗した。

苦しい言い訳ではあったが、おおむねの説明はそれで通した。

連絡があったというところ以外は、あながち間違いでもない。

あの霧崎と言う捜査官なら、直ぐに裏をとり、辻褄が合わないことには気づくだろうが、話していて感じたことなのだが、彼女の狙いは、私達以外のほかの事、ほかの人物にあるようであった。

「それにしても、昨日は気づかなかったけどあの女も能力者ね・・・。やっかいなことにならなければいいけど」

呟き、利害が一致すれば協力はするが、邪魔ならば・・。と物騒なことを考え始めた佐恵子は頭を振る。

その排他的で傲慢な考えが今回の失敗につながったからだ。

自分の力に絶対の自信を持っていた為に、目を使わずに楽しんでしまったり、モブという敵の力量を見誤り、油断で大ダメージを負い、髙嶺の千原という思いがけない強敵の出現で、あわやというところまで追い込まれたのだ。

あの織田裕二が来なければ・・。

「どうしました?まだどこか調子が悪いですか?菊一探偵事務所に伺うのは後日にします?」

赤面しかけて、ぶんぶんと頭を振っている佐恵子に、真理が不思議そうに声をかけてきた。

「いえ、行きますわ」

「わかりました。車は準備できているはずですので」

「あの人たち飲むかなぁ・・」

(飲まないときは・・・)

加奈子の発言に、またもや物騒な考えをしそうになった頭を慌てて、停止させる。

(菊沢夫妻に昨日の3人・・・今の支社の戦力だけでは難しいですわね・・・)

ただ戦うだけなら、いろいろと方法はあるかもしれないが、佐恵子が望む形に持っていくには、難しいように思えた。

「とりあえず、提案はしてみましょう。断られた場合は、それから手を考えましょう・・それと、はなを本社から呼びました。1週間ほどでこちらに着任するはずですわ。」

「よく許可が出ましたね・・・」

真理が意外そうな顔で尋ねるが、すぐに察したような顔になり

「松前常務に呼ばせたのですね?」

「そう、名目は彼らの護衛ということですけどね。こっちに来てしまえば、此方のものです」

佐恵子は含みを持たせた笑みで、真理に答えると

「はなはなかー。久しぶりですね。これで、支社長の護衛ももっと強固になるのです」

嬉しそうにそういう加奈子に佐恵子は預けていた者がいたことを思い出し、聞いてみる。

「加奈子、彼の様子はどうなの?」

「あ、彼ですね・・。まだ、昨日の今日ですよ。まだまだ重症です。あいつあんなに動き回っていたのに、すごい怪我だったみたいで、まだ監視カメラ付きの独房個室のベッドの上ですよ。・・・支社長が言ってた能力開花の可能性を測るにも、本人がまだお眠です・・・。あとで真理しゃんにお願いしないといけないかも・・それとバカなのは殴られ過ぎじゃなく元々のようです。」

「ええぇ・・、ボク、もう昨日からフル稼働で、疲れてるからまた今度ね・・」

真理が更なる重労働の依頼を、幼い駄々をこねている男の子の口調で断る。

真理は、興奮したり冗談を言うときは、【身内】の前では、男の子言葉になる癖がある。

「あう・・ボクにそう言われると思ったのです」

加奈子も真理に合わせ、真理の事をボクと言い、断られた事に肩を落としながら。

私達が派手に大けがをしていたので、真理のオーラが回復した端から真理のオーラを使い怪我を直してもらったのだ。

回復系の力を持つのは、今は真理だけなので、どうしても真理への負担が大きくなる問題を何とかしたいとは、佐恵子も常々考えていた事でもある。

「ありがとう真理・・・。真理がいてくれなければ顔にキズが残ったままだったかもしれません」

ワイヤーで傷だらけにされていた顔に手をやり、キレイに治っているのを再確認しながら、真理に改めてお礼を言う。

「そんな・・気にしないでください。それと、あの男も、ひと段落したら回復させてあげます。加奈子に言ったのは冗談ですよ。それに咲奈と雫の試験もありますし、合わせてあの男も検査をしてみるつもりです」

「ええ、忙しいとは思うけどお願いね」

「冗談でからかうなんてひどいのです」

真理は、加奈子に向かってクスリと笑うと「いきましょう」と言って、応接室の出口にほうに歩いていった。

今3人は菊一探偵事務所に、昨日、救ってもらったお礼という名目である交渉を持ち掛けに来ていた。

そして菊一探偵事務所の応接室には、菊一探偵事務所の所長、菊沢宏に、その妻で所長代理の菊沢美佳帆が、佐恵子、真理、加奈子と向かい合っていた。

私たちの目の前に居る3人。

宮川コーポレーションの、関西支社、支社長にその部下2人、彼女らは私たちに昨日、依頼を持ってきたクライアントなのではあるが、本日はまた私たちが驚く大きな商談を持ちかけてきたのだ。

この宮川佐恵子と言う人の発言には、私も正直昨日から驚かされる事ばかりであった。

「なんやて?それは、つまりどういうことや・・・?」

神田川さんと私でずっと宮川コーポレーションの意向を聞き、話していたのだが、隣に座る部屋の中でもトレードマークのグラサンをかけたままの私の旦那さまが話に入ってきた。

「有態に申し上げますと、御社を買いたいと申し上げております」

神田川さんは、私から旦那の宏に向きなおり、簡潔に質問に答える。

「今まで通り、業務は行っていただいて結構です。今までのクライアントも、こちらでどうこうと働きかけすることはございません。私どもから、調査等の依頼案件は増えるとは思いますが、基本的に今まで通り活動なさってください」

来客用のソファの真ん中に宮川佐恵子、左側に神田川真理、宮川さんの後ろには稲垣加奈子、その神田川さんの提案に、最初はポカーンとしてしまっていたが、冷静にパチパチと頭の中で算盤を弾く。

「・・・条件があるのでしょう?」

私は、眼前で脚を組み座る、宮川さんに負けじと、脚を組み替えながら聞くと、旦那さまの宏がまた口を挟む。

「ちょいまち美佳帆さん・・条件とかそういう問・・」

「少し待って、聞くだけよ。ね?宏」

今回の話の、宮川さんの真の目的に、それがなんであるかの当たりをつけた私の直感はおそらく正しい。私の直感通りなら、橋元一派ひいては張慈円と繋がる怪しげな一族と構えるのに、私たち所員の能力での助力を宮川さんは欲しいだけで、我が探偵事務所を自由にしたいわけではない。

要は自分たちを絶対に裏切らない傭兵が欲しいのだと私は感じていた。

「うむむ・・美佳帆さん、金が絡むと怖いんやもんなぁ・・・」

宏が私が圧をかけるように諭したので子どものようにぶつぶつ言いながら拗ねているが会話の邪魔をしないよう大人しくなったので、神田川さんが

「よろしいでしょうか?」

と声をかけてきたので、手で促す。

「もし承諾していただけた場合ですが、その際は弊社、宮コーからの依頼を最優先でお願いします。給与その他出来高払いになります。詳細はそちらの用紙をご確認ください。それと、宮コー関西支店の5階に空きテナントが300㎡ほどありますので、今後はそこをお使いください。それと、金額ですが・・・」

神田川さんはいつものにこやかな様子とは違い、引き締まった表情で、淡々と説明を行い、最後に契約書面を机の上に置き、私の前についと持ってきた。

「からやないか・・」

隣で宏が、呆気にとられたように呟くのも無理はない。

神田川さんが差し出した契約書面には金額が記載されていなかったのだ。

「金額はご記載ください」

神田川さんの隣で、目を閉じ、脚を組んで聞いていただけの宮川さんが、静かにそう言った。

「ただし、契約金を受け取ってすぐに退職するなどと言うことはお考えにならないように・・菊一探偵事務所の方々が、そのような事をする方々でないのは勿論存じ上げてはおりますが・・・詳細は契約書にも書いてございますので、熟読してくださいませ」

念を押すようにそう言うと、再び目を閉じ黙ってしまった。

「わかりました、少し相談するのでお待ちいただけます?」

私は金額欄が空いているのは、いくら書いても大丈夫だということなのだろうが、あまりにも無謀な金額を記載すると、前に座っている宮川さんが黙ってはいない気がした。

パーテーションで仕切られている、奥の部屋まで宏を引っ張っていき、小声で宏と相談する。

相談と言っても、契約内容を聞いた時点で私の意思は固まっていた。

「あのね宏・・、みんなにも相談しないといけないとは思うんだけど」

「み、美佳帆さん・・ちょっと、おれは今更サラリーマンなんて嫌やで?あの女のいう事なんか聞けるかい。どんな無理難題ふっかけられるか・・」

「・・・聞こえてますわよ?」

「うお!」

掛けられた声に宏が大げさに驚いて、振り返るとそこには宮川佐恵子が立っていた。

「み、宮川さん・・こちらはスタッフルームでして・・」

「存じ上げておりますわ・・。扉にスタッフオンリーと書いてありましたから・・・。それでも、きちんと私の口からもお願いしたかったのです・・」

宮川さんはコツコツ足音をさせ喋りながら、私達の間近まで歩いてきた。

「ご存じの通り、我々宮川はコングロマリット企業体で、家業という稼業を持ちません。利益が上がるものであれば、違法なものや倫理に欠けること以外は、何でも見境もなくやってまいりました。・・故に敵も多く、私達自身で自分たちの身を守らなければなりません」

私達の方を向いてはいるが、どこか遠くを見ているような目で、滔々と宮川さんが語りだした。

「私たち一族は能力者です。・・・世間では超常の力と呼ばれている力も、あなた方からすれば、才能や努力の延長線上にあるものだとは理解していただいていると思います。・・・我々宮川はあくまで社会の味方であり、自衛手段として能力を開花させ使用してます。・・・時にはビジネスにも使用いたしますが、そのルールは私達にも適用されます」

「つまり、自分たちが使う以上、相手も使って構わない。と?」

私は話の腰を折ってしまうかと思ったが、つい聞いてしまった。しかし、即座に質問として返っててきた。

「対等ではないと?そうお思いですか?」

「いえ、全然そう思わないですよ。私たちも力を使って仕事をしてますから。それだからこの人数でこの街1番の探偵事務所とまでこの短期間で言われるほどになったのですから。ただ、私たちもこれまではあの橋元の所の張慈円のような相手も能力者で、悪党な場合は苦労しますけどね」

この宮川さんという方は、その普段の態度の大きさは育ちと生まれながらの立場が原因であると思われるが、持っている本質は正義感の塊と思える。

うん?態度が大きく、正義感の塊?

そう思った時私は思わず吹き出しそうになってしまった。性別や性格や温度差は違えど、私の旦那様の宏とそっくりじゃない!そう思い笑いを堪え表情は真剣な表情のまま、宮川さんをみつめていると、宮川さんが私の言葉に対して、

「その通りでございます。ご理解いただいたと解釈します・・。宮川は大きくなりました。ますます、大きくなるでしょう。一族の能力者だけでは宮川を守れないほどに・・・。そして、ご指摘のとおり、敵対する勢力にも手強い能力者が居る場合もございます・・・。私の部下をもうご存知ですよね?」

「神田川さんと稲垣さんね?あの2人は宮川さんの一族じゃないんでしょ?」

「彼女たちは私には過ぎた部下です。ですが、一族ではありません。つまり、私たちには社員や私たちに関わった人々、そして私たち自身を守るには能力を悪用する輩に抗う力が足りないのです・・。組織を守るにはもっと優秀で強い人材が必要なのです。そこで、お互いに折り合う条件を提示できればと、この度提案させていただいたのです」

やはり、特大企業の創始者の一族、そのご令嬢だけあり、お若いのに大した迫力と説得力である。真剣に話す宮川さんの言葉には私の心に突き刺さる何かがあった。

「せやけど、俺いまさら宮仕えはできへんで・・・?」

先日の尊大な態度とは裏腹な宮川さんの態度に、少々警戒しながら宏が口を出した。宏は元来、自分の行動を束縛されるのを何より嫌う。彼も宮川さんの力になりたいと今の話を聞き思ったのだろうが、宮川コーポレーションの一部になるという事だけが引っかかるのだろう。

「命令ではありません。・・あくまで依頼としましょう。その他報酬規程の出来高払いに反映させます。ですが・・・菊沢様・・・あまた方は依頼の優先順位を間違うようなお方には見えませんわ・・。私からのお願いです。私の元に来てください」

そう言うと、宮川佐恵子は長い髪が床に付くほど、頭を下げた。

宏と二人で頭を下げた宮川さんを凝視する。

5秒・・・もっと立ったかもしれない。あのプライドの高い宮川さんが、ポーズと言えども、こんなに長時間頭を下げるだろうか・・。

何か言わなければ、と焦っていると、頭を下げる宮川さんの後ろから見慣れた顔が現れた。

「ええんやない?この内容やと仕事は増えそうやし、俺らの給料も絶対に増えるやん?それに駅前にあるあのでっかいビルの5階やろ?・・契約書に書いてあるけど、家賃も格安で光熱費込みやんか。俺は副所長として賛成でええで?」

和尚こと哲司が契約書をバサバサとさせながら、軽い口調で言った。

「て、哲司さま!」

少し慌てた声をだし、下げていた頭を上げ、宮川さんが後ろを振り返る。

「うん俺もそれでええわ・・。しかし命令は聞かへんで・・?内容は所長代理と副所長が承認してるから間違いあらへんのやろ・・・。あとは、美佳帆さん・・金額やが俺が金に興味ないん知ってるやろ?・・あとは任せるで・・」

さすがに宏も、条件付きではあるが了承の意を示す。

「任せておいて」

宏の言葉を聞いた私は、一言そう言うと、哲司が持っていた契約書を、パッとひったくり、さらさらと金額を書く。

「宮川支社長、これで如何?」

にっこり笑って、宮川さんに向かって見えるように、契約書を返す。

「もちろん結構ですわ」

にっこりと笑みをたたえ差し出してきた宮川さんの手を掴み、私達はがっちりと握手した。


【第8章 三つ巴 20話 能力者集団結成終わり】21話へ続く

第8章 三つ巴 21話 気の合う美女2人と光る眼鏡

第8章 三つ巴 21話 気の合う美女2人と光る眼鏡

世間は3連休で、駅前を行き交う人々は普段とは少し様相が変わり、家族連れなどが多い。

究極のホワイト企業を目指す宮川コーポレーション関西支社は、無理な休日出勤や残業代が支払われないなどと言うことは絶対にない。それだけでは不十分だという支社長の思いは更に高見を目指し、あらゆるマニュアル業務改善、時間差出勤を取り入れ限りなく残業、休日出勤をなくしていた。

しかし、何事にも例外があり、神田川真理は今日も出勤していた。数日業務に穴をあけたせいで、その穴埋めを余儀なくされているのだ。

「・・・・このメールを送って、返事待ち・・っと」

広いオフィスの自分の席で、鼻唄交じりにマウスをクリックした真理が、椅子に座ったまま、両腕を伸ばして背伸びした。

運輸部門から、日本各地に散らばるデポの施設及び設備の充実の要望が、数か月前から急増していた。

その処理が中途半端になっていたので、目的のついでに各相手方にメッセージを投げ返しておく。

宮コーはやる気のある女性社員の中途採用も多い。その場合、運輸部門、もしくはサービス部に配属されることが多いのであるが、どちらも女性比率が上がってきたため、上がってくる要望も変化してきていた。

特に女性でも高収入を得ることができる運転手、いわゆる長距離ドライバーの女性比率が8割ほどにもなってきてしまったので、出てくる要望が変化してきたのである。

各地にあるスーパー銭湯や、お上からの払い下げ物件の年金会館を改造した宿泊施設を各地に所有しているネットワークを生かし、民間にサービス提供と同時に、ドライバーを務めている社員の福利厚生の場所として、格安で食事や入浴、宿泊もできるようになっている。

「保育施設の併設を・・・か・・。昔みたいに、離婚さえしなければ生きていけるってわけじゃないってことね・・・わが社はシングルマザーの受け皿みたいになちゃうわね・・」

誰もいないオフィスで、独り言を呟きながら、「それもいいことね」と思い、隣の支社長室まで歩くと扉を一応ノックする。

当たり前だが、何の返事もない扉のノブに手をかけ開く。

今日も出勤するとは言っていたが、佐恵子はまだ来ていない。

「佐恵子のオーラ、空っぽしてしまったから、なかなか大変でしょうね」

真理はオーラが枯渇したときの佐恵子の発作を思い出し、複雑な表情になる。

「付与効果は1日・・。今日の早朝には切れたはずだわ・・。上書きできるオーラも回復していないはず・・」

佐恵子の机の上に、報告資料をドサリと置き、承認必要書類と報告資料を分け、見やすいように並べていると、整った美貌に意地悪な笑みを浮かべそうになり口角があがる。

佐恵子の顔の傷を治すため、真理のオーラだけでは足りず、佐恵子のオーラも大量に消費したのだ。最後は佐恵子のオーラもほとんどなくなってしまったのだが、佐恵子のオーラは全部使い切ってしまった。

佐恵子は冷静付与を自身に常に施している。そうしないと、佐恵子のように精神を複雑に操作する能力は集中が難しいためだ。しかも佐恵子はベース部分になる、一定量以上のオーラが回復していないと、うまく能力が発動できないという特徴を持っている。

枯渇状態で冷静付与を上書きすることもできずにいる、佐恵子のことを想像すると、整った美貌に意地悪な笑みが綻んだ。

(今頃は、大変な思いをしているのかしら・・・ふふふ・・・しかし、普段がお堅いのですから、たまには思いのままに耽れば良いのよ佐恵子)

真理が、このように心の中で呟いた理由は、佐恵子は体内からオーラが『空』の状態になってしまうと、普段は微塵も見せない、性欲が無意識に沸き上がってきてしまい、無性に身体が熱くなってしまい、どうしようもなくなると言う弱点がある事に由来している。

そんな真理の最大の特徴は、その知性や美貌ではなく、脳内でどんなことを考えていても、その外面は清楚且つ知的に見えることだろう。

佐恵子の【感情感知】にも目立った変化は捉えられず、実際にどんなことを思考しても、感情のブレはほぼない真理にとっては、そのセンサーはザルに等しかった。

佐恵子の前で、唯一嘘を見破られない人物である。

今の真理が浮かべた笑みも、世の中の男性諸君にもし向けられたとしたら、好感を持たれていると勘違いすらするであろう会心の笑顔であった。

「加奈子が階下に待機してるから、何かあっても大丈夫でしょうしね・・」

自宅のマンションで一人身悶えているであろう、佐恵子を想像し、一応心配を口にすると、飲み終えたコーヒーカップを塵箱に捨て、今日出社した本来の目的の場所に向かう。

「菊一探偵事務所の皆様のお引越しは、捗っているかしら」

エレベーターホールまで来ると、5階とかかれたパネルをタッチし、呟いた。



休日の支社は物静かなはずなのだが、5階のホールは、いつもとは違う声が飛び交っていた。

「それはこっちやねん!モゲ!お前自分の机だけしか運んでないやろ!」

ニコラスケイジ風の、三出光春ににツッコんでいるは、副所長の豊島哲司。

「なんやて!ちょっと休憩してただけやないかい」

と、悪態をついたのが、モゲと呼ばれている三出光春。

「ひろーい!吹抜けも外の景色もすごいわよ!」

元気で活発そうな明るい女性が、斎藤アリサ。菊一探偵事務所には、斎藤姓が2人いて、もう1人の斎藤、斎藤雪は、現在、療養中。

こちらの方は、斎藤アリサ。

「ここが今後僕達の城になるんですね!」

この眼鏡をかけた、芸術肌の男が、北王子公麿。

「それよりこっちみた?!化粧室とかシャワー室まであって凄いわよ!こっちこっち」

そして、新しい事務所の設備に、アリサ同様おおはしゃぎの寺野玲華。

一通りデスクやキャビネットをフロアまで持ち込んでもらったところで、広い空間でにわかにはしゃぎ始めた面々を見ながら、美佳帆は大声で提案した。

「ちょっとみんな聞いて!アリサ!走らないの!・・・いったん休憩しましょう!」

美佳帆は1Fに入っているコンビニで買ってきた袋を、みんなに見えるように高く持ち上げ手を振る。

みんなに飲み物を渡し終えた美佳帆に向かって、宏が話しかける。

「慣れるまで大変やな・・・。俺向こうに出勤してしまいそうやわ」

美佳帆が振り返ると、無理やり機嫌が良さそうな声で言う宏の隣に腰を下ろし、ペットボトルのお茶を渡す。

「しかし、よかったな・・。事情聴取はたまらんかったけど、お嬢を助けてくれてたんは感謝の言葉しかないわ」

「ええ、お嬢も色々あったみたいでずいぶん落ち込んでいるけど、命があって何よりだったわ・・。もう少し病院で安静させるつもりだけど、五体満足だし、あとは日にち薬ね・・・」

「そうか・・」

受取ったお茶のペットボトルを握ったまま、宏はそう言うと目を伏せた。

「宏のせいじゃないわよ。そういう危険も承知でみんな集まってくれてるんだから」

できるだけいつもの口調で、気にしないように答えたつもりであったが、宏は一言「そうやな・・」と力なく答えただけであった。

スノウも自宅で休養させてある。ぽつりぽつりとは美佳帆にだけは事情を話してくれたが、力でねじ伏せられ、張慈円によって、身も心も屈服させられ、快楽に負けてしまった自分を責め恥じていた。

あの動画を見てしまったので、何をされたのかは大体わかっているのだが、動画以外のところではそれ以上のこともあり、スノウ自身も気丈ではいられないところまで追い込まれたのであろう。

あの好色蟷螂の張慈円である。おそらく、お嬢こと伊芸千尋もスノウ同様に、同じ目にあったのであろう。霧崎美樹というエリート捜査官がアマンダという、橋元が所有しているホテルに強硬捜査に踏み切ってくれたおかげで、助け出し保護してくれていたのだ。

昨日、霧崎さん同席のもと、宏と二人でお嬢と再開を果たしたときの、お嬢の衰弱した目が忘れられない。

宏もその時のお嬢の表情を思い出したのだろうか。サングラスのせいで表情はよく読めないが、横顔には責任を感じているのであろう哀愁が漂っていた。

今回の宮コーとの商談も、スノウやお嬢の件があったから、宏は自分の信念を曲げてまで宮コーに吸収という形でも飲んだのでしょうね。

たしかに、ここなら宮川屈指と数えられている能力者がすでに3人もいるし、もう一人補充が来るとも聞いている。

建物のセキュリティも異常と呼べるレベルであり、自社で警備会社も経営しているだけあって、自社警備員が駐屯巡回してて、各階に監視カメラ、要所には赤外線センサーまである。

警備部門の社員も形だけではない。有名民間警備会社とは違い、全員が元レンジャーや、格闘技の選手で、質実剛健な人員を揃えており、彼らの身元調査もしっかりと行われていると聞いた。

単純な戦力の増強と言う面では、菊一も宮コーも利害が完全に一致しているという訳ね、などと考えていると、モゲが近くまでやってきた。

「所長、美佳帆さん。俺、自分の荷物は大体運びおわってるから、お嬢のお見舞いにいってもええかなあ?」

「ええ、いいわよ・・。でも女の子のお見舞いなんだから、面会断られたら、おとなしく帰ってきなさいね?」

「な、なんでや・・。俺がお見舞いに行ったら断られるかもしれへんて?まさかお嬢にかぎって・・」

モゲが憤懣な声を上げたため、美佳帆は嘆息気味に窘める。

「あのね。病院のベッドで、パジャマで休養してるのよ?髪だってお化粧だって、ちゃんとできてないかもしれないでしょ?だから、お嬢が会いたくないって言ったらおとなしく帰ってくるのよ。って言ってあげてるの。わかった?」

かみ砕くように言いながらも、語尾が強くなっていった為、モゲはタジタジになりながら、

「わ、わかったわ・・。ほな、とりあえず、いってきてええな?」

「お見舞い何か買って行きなさいよ・・?あー・・やっぱり、姫も一緒に行ってあげて。姫―」

送り出そうとして、少し考えると美佳帆は手招きして姫を呼ぶ。

「うん。聞こえてた。私も行くよ。モゲだけだとデリカシーなさそうだしね」

「そういうこと、お願いね、姫」

「ま、まあ、ええやろ。ほな、姫。はよいくで」

「うるさいわね。お嬢のことになると、すぐ熱上げるんだから。じゃあ美佳帆さん行ってきます」

エレベーターのほうに、いつものように言い争いをしながら歩いていく二人に、手をひらひら振っていると、エレベーターの扉が開き、神田川真理が扉の向こうから現れた。

乗り込もうと歩んできたモゲと姫ににこやかに挨拶をし、エレベーターの扉が閉まらないよう、丁寧に二人を送り込んだ後、此方に会釈しながら神田川真理が歩いてきた。

「お疲れ様でございます。菊沢さん」

一連の所作がなんとも女性らしく、かつ優雅で自然な振舞いである。少し離れたところから、澄んだよく通る声で挨拶をしてくる仕草や佇まいは、上品で清楚を体現すると、こうなりますよというお手本であった。

休日だと聞いていたが、いつも通りキリッとした身だしなみで、ダークスーツに薄い緑のブラウスがよく似合っていた。

(はぁ・・。あれで仕事も出来て、戦闘もできる優秀な能力者・・か。宮川さんじゃなくても、近くに侍らしたくなる気持ちもわかるわね・・)

此方に歩いてくる神田川さんに、少し見とれてしまいながら神田川さんに会釈する。

「ええ、神田川さん。運送屋さんまで手配していただいたおかげで助かりました。私達大所帯ですし、一人一人の荷物が・・ほら・・。大変・・」

美佳帆がフロアに置かれた、大量の荷物を指さし真理に苦笑いで返す。

「真理でけっこうですよ。・・当社は運送業もやってますからね。このぐらいの量なら全く問題ありません。もしよろしければ、明日、手の空いている者に手伝わせましょうか?」

「じゃあ 真理さん、私のことも美佳帆で結構です。いえいえ・・・これ以上、御社のお世話になっちゃったら気の毒ですよ

お互いににっこりと笑顔を返しあい、真理の親切な提案を、手をぶんぶん振りお断りする。

「ふふ、美佳帆さん。もう御社じゃないんですよ?当社・・です」

人差指を立て、牡丹の花が綻んだようないい笑顔で、真理が美佳帆に答える。花の香までしてきそうだ。

(うわあ・・・。これ男性ならひとたまりもないんでしょうね~うちにも、クラクラ~ときちゃいそうなのが居るわ・・・)

「そ、そうね。当社ね・・。慣れなきゃいけないわね。使えるカードが増え過ぎたから、整理しないと・・・じゃあ、お願いしようかしら」

真理のキラースマイルに心底関心しながらも、宮コーのもってる手札がすべて使えるようになったことを再認識する。

「ふふ、承知しました」

そう言うと、スマホを取り出し連絡している真理を眺めながら、再度頭を整理する。

真理さんたちも、私達の戦闘力や能力を把握したいはず、どんな仕事ができるのかとかも当然知りたいはずなのだ。

(お互いにどんなカードがあるのか、真理さんと一度じっくり話す必要があるわね)

「明日5名ほど警備の者がお手伝いに上がります。こういう社員証を下げてますので、それで確認してくださって使ってやってください」

真理はスマホをベストのポケットにしまいながら、ストラップのついた自身の社員証を胸ポケットから出し、美佳帆に見せながら言った。

「配慮感謝します。・・・それと、真理さん、今度お酒でも飲みに行かない?」

「ええ、喜んで。このあたりですと、美佳帆さんたちのほうが詳しそうで、いいところ、教えて頂けそうですね」

二人の美女が、打ち解けだし、声のトーンが上がっていった。


美佳帆と真理とのやり取りを、遠目で観察していた画伯こと北大路公麿が、和尚と呼ばれるには程遠い風体の豊島哲司に話しかける。

「あ、あの方は誰です?先日の一連の騒動のときの話に出てきた方ですか?」

「そやで、神田川真理さんちゅうんや。何回か事務所にも来てたみたいやけど、画伯は面識なかったんか?」

哲司は自分のデスク周りの荷物を整理しながら、画伯に答えたのだが、画伯の返答がないのでどうしたのかと思い、画伯のほうを見る。

そこには、美佳帆と真理が話している様子を眺めて眼鏡を光らせ、口を開けた画伯がいた。

「おい画伯!どないしたんや?」

「はっ!・・・いえ、どないもしません」

哲司の問いかけに、ボケーとなってしまっていたことに気付いた画伯は、極力平静を装ったつもりで答えた。

「画伯、真理さんに目を付けたのー?!美佳帆さんも見てたくせにー!」

「うわあ!」

違う方向から、予想外の質問を浴びせられて、画伯は声を上げてしまう。
天然こと斎藤アリサに急に大声で指摘され、否定しようとアリサに向かって一言言おうと眼鏡を直し向き直ると、哲司がやれやれという口調で

「なんや、画伯・・・。神田川さんにも眼鏡光らせてしもうたんか・・。ほんまにお前は節操がないやっちゃな・・。でも、言うとくぞ。美佳帆さんはもちろんやけど、あの神田川さんも画伯が勝てる相手やないで?綺麗な花には棘があるっていうし、それに、俺らは一応ここの中途採用の新入社員や・・。神田川さんは秘書主任で支社長の側近や、随分役職が上やから気つけなあかんで?」

副所長らしく哲司が画伯にそう念を押し、ペットボトルのお茶を口に含んだとき、天然アリサが大声で哲司に聞いてきた。

「ねえ!麗華ちゃんの話だと和尚も社長になにか渡されてたみたいじゃない?!」

「ぶーーーーーー!」

哲司は飲みかけていたお茶を盛大に吹き出し、ゴホゴホとむせた。

哲司と画伯、そしてアリサがギャーギャーと騒いている様子を美佳帆と真理は並んで眺めながら

「みなさん仲がよろしいですね」

「あの馬鹿ども・・・」

真理と美佳帆は、対照的なセリフと表情で3人の漫才を眺めていた。

(うちは既婚者も多いので、色恋沙汰で、学生のように騒がれたら、コンプライアンスの厳しそうな宮川コーポレーションさんの顔に泥を塗るわ・・・)

と声に出さずに心の中でそう呟き、美佳帆は真理の、顔を見て苦笑いをした。

【第8章 三つ巴 21話 気の合う美女2人と光る眼鏡終わり】22話に続く


第8章 三つ巴 22話 自動絵画

第8章 三つ巴 22話 自動絵画

菊一探偵事務所が今後使用するフロアは事務用品がまだ配置されておらず、まだ、引っ越し作業中である。

引っ越しの指示は宏と哲司に任せ、美佳帆と真理はエレベーターホール近くの打ち合わせ用のテーブルに向かい合って座り、お互いの状況や情報を交換し合っていた。

「なるほど。大体の状況は分かりました。いくつか、処理しなければいけない問題を抱えておいでですね」

「そうなのです。この水島と言う男の処理を請け負ってしまっているので、大手企業の宮川コーポレーションの仕事として正式受諾するには、些か問題があるのかとは思っておりまして・・」

美佳帆はさすがに上場企業で「殺害依頼」の実行は無理だと思い、真理の反応を伺う。

橋元一味の水島喜八は、現在、大塚さんの隠れ家マンションに監禁しており、大塚さんの数少ない部下である、現役刑事の粉川さんや杉さん、それに斎藤さんに24時間交代で監視をさせているのだ。

一通り情報の擦り合わせを終えたところで、2杯目のコーヒーに口を付けた真理が、カップを置き、口を軽くハンカチで拭うと

「まあ・・それは、また後日と致しましょう」

と、軽く濁したあとに、別件を切り出した。

「それよりも至急案件なのは、そのマンションですね。美佳帆さんたち菊一探偵事務所が宮コーに買い取られたことは、その大塚さまはもうご存じなのですか?」

「え、ええ。お互い協力し合う関係にありますから、そうなるかもしれないとは・・。詳しく決まったら、改めて連絡を入れるって話してありますけど・・」

「なるほど・・・」

美佳帆の返答を受け、真理が頷き、数秒考えると再度口を開く。

「私が香港三合会の幹部であれば、張慈円に対してこう指示を出します。『邪魔な人物、及び、その部下の家族、恋人を襲い、監禁拷問し、彼らに情報をリークするように脅迫した後に人質諸共消せ』です」

世界一荒事から遠い存在に見え、虫も殺せそうに見えない神田川真理が、先ほど挨拶を交わしたときの口調と同じような声色と表情でそう言った。

「そ、そんな・・!そこまで・・。それに、彼らが裏切りだなんて!」

その反応を予想していたらしく、真理は美佳帆に向かって深く相槌を打ってから、続けた。

「お気持ちは分かります。もちろん、誰かは分かりませんが、誰しも裏切りたいわけではないと思います。しかし水島喜八という人物を監禁してから時間が経ちすぎています。もはや敵からみると、水島には何の価値もありません。むしろ、消したい存在でしょう。なので、彼を匿っている限り、敵のほうからどうしても接触してきます」

真理は、両手でカップを持ち、半分程度まで減ったコーヒーをくるくるとカップごと回しながら、さらに続ける。

「それと、岩堀さんや大東さんからの依頼達成をこの目で確認しにくくはなりますが、もう敵に渡してしまうだけで目的は達成するでしょうね。かつての仲間の手によって闇に葬ってくださると思います。・・・こちらにとっては、能力者ですらない水島喜八には価値どころか、敵をおびき寄せてしまう危険、そしてその危険を守る為に、配置している人員やその家族が狙われ、今度はこちらの情報が敵に漏洩する可能性があります」

指摘されれば、可能性としては十分考えられることであると理解できる。

美佳帆はどこかで、敵の凶悪さ加減の認識の甘さゆえ、すでに後手に回っているかもしれないと、感じていた。

それにしても神田川真理・・・。見た目どおりの人物ではない。宮川コーポレーションに身を置く幹部ともなると、ここまで肝が据わっているものかと美佳帆は感心する。

たしかに、真理の言う通り、状況を変えられれば、人は意思に反した行動も起こす。

敵にとって犯罪などは、普通のサラリーマンの日常の仕事となんら変わりはしない。その認識が少しばかり甘かったのだ。

「たしかに・・、お嬢や神谷さん達が襲われるタイミングを考えると、不自然ね」

真理の発言で、どこか頭の片隅ではその可能性に気付いていたのだが、一気にその考えが頭の中の中心に広がってくる。

もしかしたら、すでに敵の手が回っており、大塚たちの家族がスノウやお嬢のように、敵の凌辱を受け、脅迫の材料にされている可能性を感じ、唇を噛む。

「敵に内通しているかどうかは直ぐに確かめることができます。佐恵子が元気なら、連れて行くだけですぐさま見破ってくれるのですが、今はそうもいきません」

カップを両手に持ち、普段の表情を変えず、穏やかとさえ見える真理さんの発言に、顔を上げ、続きを促す。

「いますぐ本人たちに内緒で、水島喜八を見張っている人員の、ご家族の安否確認をしてみてください。・・家族全員が健在なら私の邪推だったと安心できますが、先ほども申し上げた通り、時間が経過し過ぎています。もうおそらくは・・。斎藤雪さんは別としても、伊芸千尋さん、神谷沙織さん・・。美佳帆さんが、違和感どおり、どうして同時期に、別の場所で敵と鉢合わせをして、立て続けに捕らえられたのでしょうか?もちろん、敵の拠点にいったのですから、偶然の可能性もかなり高いですが、その他偶然が重なったとしても・・・こちらが強襲したというのに、囚われるとは・・・っと、私達3人も此度は、強襲したというのに、手痛いダメージを受けたので、偉そうなことは言えませんけどね」

真理の自虐的な冗談とも思えない発言を少し聞き流し気味に、美佳帆は困惑気味ではあるが、素早く頭を切り替え、スマホを取り出しモゲにダイヤルをする。

美佳帆のその様子を見ていた真理もスマホを取り出し、部下に連絡しだした。

「もうしばらくしたら警備の責任者がここに来ますので、マンションに詰めている刑事さんたちの身辺調査にお使いください」

「ええ、ありがとう。こちらも姫とモゲに、お嬢とスノウを引っ張ってでもここに連れてくるように連絡したわ。ちょっと可哀そうかもしれないけど、そうも言ってられそうにないかもしれないですしね」

先に電話を終えていた真理が、美佳帆が話し終えるのと同時に話しかけ、お互いに報告をし合う。

「さすが、ご賢明です。それに、ご安心ください。ここの警備員たちは、クリーニング済みです。使えない・・ということもないとは思いますが、気になることがあれば教えてください。それと、このビルの11階より上は、ご存じの通りホテルです。急な来客や緊急事態に備えて、部屋はいつも5部屋ほど空けてありますので、伊芸さんや斎藤雪さんはもちろん、菊一事務所の皆さんも今後しばらくは、そちらでご滞在ください。11階のフロントで私の名前を出してくだされば、スムーズに話が進むと思います」

「真理さん。気遣い本当にありがとう。今回甘えさせてもらうわ」

「いえいえ、私達はすでに同じ組織、美佳帆さんが私と同じ立場でも、同じ対応をされたでしょう。・・・それに、ふふふ・・私の希望としては、今後、美佳帆さん達とはこのようなお堅いおしゃべりではなく、もっと打ち解けられたらなと思っております」

「ええ、もちろん。私もガラにもなく、ちょっと堅かったし、ね。そのうち、お互いに慣れてくるわよ真理さん」

美佳帆はそう言い、真理と美佳帆はお互いに笑顔を交わす。

すると真理は何かを思い出したような顔をすると、先ほど交し合った資料を捲り出し、お互いの能力を確認し合った用紙をテーブルに出し、用紙を指さしながら、美佳帆に尋ねる。

「話は変わるんですけど美佳帆さん。このお二人、本日お貸し願えないですか?」


美佳帆に貸した警備部門の人員を捜査に使っても、刑事たちの身辺調査は夕方か夜半まではかかるだろうと真理は考え、今日のほかの予定を進めてしまう前に、試したいことがあったのだ。

資料を整えていると、ノックの音が部屋に響いた。

美佳帆に、拝借する要請をした1人目の人物がやってきた。

「北王子公麿です。僕に御用がおありだとか・・?」

「ええ、神田川真理と申します。北王子さんの面談を兼ねてお願いしたいことがございまして」

5階にあるフリーの応接室に呼ばれた画伯こと北王子公麿が扉を開けて部屋に入ってきた。

真理は自らも腰掛けながら、いつも通りの笑顔で北王子に座るように促すと、北王子もそれに倣って、机を挟んで真理の正面に座った。

机には白紙A4の用紙が20枚ほどであろうか、積み上げられており筆記用具等が並べられている。

北王子は机に並べられていた道具を見て、目の前にいる微笑の美女が、うちの美佳帆さんから自分の能力を聞いたんだなと即座に理解していた。

「お察しのとおりです北王子さん。少しお願いしたいことがありまして、お力を貸していただけますか?」

「もちろんです!絵は僕の得意分野でもありますし、能力を使っての的中率は今までなんと100%!・・・僕がどれだけ菊一事務所にとって事件解決のキーマンになっていたかをご覧に入れましょう!そして、僕がどれほど役立つ男かを、神田川さんに知っていただきたい!」

北王子は、何故か座っていた椅子からガタンと音をさせ立ち上がり、メガネを反射させながら真理に向かって左手を差し出すようなポーズをとると、眼鏡を右手の人差指と中指でクイッと持ち上げた。

真理は笑顔のまま2秒ほど固まっていたが、

「それは頼もしいですね。ぜひとも【自動絵画】をしていただきたいことがあって、私が個人的に気になっていることがありまして、北王子さんの能力の精度の検証を兼ねて、能力を使って描写していただきたいことがあるのです」

真理は、何事もなかったかのようにキラースマイルのまま返答をするも、北王子は真理の予想の違うところを飛んでいた。

「公麿とお呼びください。貴女のことは真理とお呼びしても?」

「いえ、社員の目もございますので、神田川と」

相変わらずのキラースマイルのままの真理は、北王子が言い終えた直後に即答する。

「・・今日お会いしたばかりですしね・・照れるのは無理もありません。・・・貴女という女性を、じっくり知ることができる時間を得たと感謝することにしましょう!」

「確認なのですが、【自動絵画】は、私の思念を通じて、私が描いてほしいと思っている人物の今の状態を描き表すことができる。その認識でいいのですか?」

真理は『北王子は、なかなか愉快』と頭の中のメモ帳に記載しながら、確認したいことを北王子に投げかける。

「そうです!真理さんの思いが強ければ強いほど、鮮明に描写されます」

「神田川とお呼びください」

眼鏡を光らせ指で位置を直しながら、ようやく座った北王子の暴走を無視し、真理は訂正を入れる。

「失礼・・。つい・・。ですが、【自動絵画】には少しばかり残念なことがありまして・・」

僅かに口ごもる北王子に、真理は少しだけ身を乗り出す。

「どういったことなのです?」

「・・・実は、【自動絵画】で描写中の私は無防備になりまして、その間は、麗しくもお強い貴女に守っていただかなければなりません。それに加え、描写中の記憶は私には全く残らないのです」

北王子が大げさに頭を振りながら、右手で頭をかかるような仕草で肩を落とす。

「ちょっとよくわかりませんが、全く問題はないようですね。では、描いた絵は改めて見なければ、北王子さん自身も認識できないと・・?」

ちょっとよくわからない、という真理の発言に「え?」と声と顔を上げた北王子であったが、真理の無言の催促に負け答える。

「そうです。僕自身も描き終えた絵を見なければ、何を描いていたのかはわからないです」

「なるほど、十分です。ではさっそく始めてください」

真理は即座に北王子に答えると、促した。

「わかりました・・・。・・では・・いきますよ」

北王子はそう言い、濃い鉛筆を手に取ると同時に身体全体がオーラ包まれる。

真理も北王子のオーラに包まれ、北王子の思念と同調した感触に、一瞬躊躇うが、できるだけ北王子の波長にシンクロするようにオーラを調整し、佐恵子の情報をイメージに乗せる。

特に北王子から方法は聞いていなかったのだが、オーラが同調したと同時に、どうするべきか伝わってきたので、やるべきことは簡単であった。

サラサラと絵を描き上げていく北王子を観察する。

目は開いているが何かを見ているという感じではない。

真理は絵を描き上げていく北王子の様子と、描きあげられていく用紙を交互に見ていたが、ある程度描写が進んだあたりで、予想をしていた描写に僅かに赤面する。

「佐恵子・・・」

北王子がほぼ描き終えている絵を手に取り、まじまじと見つめる。

それは、完全に宮川佐恵子であった。北王子が、鉛筆で描写しているため白黒であるが、光と影のコントラストが付いた絵は、佐恵子を知る人が見れば、誰が見ても佐恵子とわかるほどの精度であった。

能力者同士で波長が合わせやすかったせいもあるかもしれない、写真のような描写である。

描きかけの絵を手元から真理に奪われた北王子の手元に、真理はもう一枚紙を置いてやる。

すると、真っ白の用紙にまたもや北王子が描き出す。

絵には佐恵子が普段は絶対しないような表情で、全裸で両手を股間に這わせ、目を閉じ、歯を食いしばって、顔を快楽にゆがめている自慰姿が描かれていた。

ベッドで正常位の格好になり、脚を開き右手は女性の代表的な性感帯である陰核を中指の腹で捏ねるような動作をし、左手の中指は、この行為がもう始まり結構な時を経過している事を物語る程に淫液を放出する蜜壺に突き立てているのが見て取れる。

(スゴイ・・・絵なのに音まで聞こえてきそう・・・佐恵子が奏でる、クチュクチュという水音が私の耳には確かに聞こえるわ・・・これは、北王子さんの能力がまだ発展途上で、依頼人が能力者の場合は、より密度の高い情報を得れるのかしら?それとも、私と北王子さんのオーラの相性が良いから?もしそうだとしたら・・・)

真理はそんな事を考えながらも、次から次へと、まるでドラマのコマ送りを見る速度で用紙に、佐恵子の痴態を描き上げていき既に北王子に描かせた絵の枚数は10枚に達していた。

北王子が一枚描くスピードが約2分ほどである。アニメーションのように少しずつ変化している絵を見ながら、この20分の時系列を間違えないように並べながら真理が呟く。

「これは・・。すっごい能力だわ・・・。それにしても、佐恵子ったら・・激しいわね・・この静止画でも、温度や息づかいまで伝わってくるわよ・・・それに私だけかも知れないけど、本当に音に、佐恵子の吐息、時折あげている声まで聞こえてくるわ・・・」

クスクスと笑いながら絵を見ていた真理であったが、十数枚続けて描かせていると、途中で北王子のオーラが弱弱しくなってきているのを感じたが、同調している真理自身のオーラを奮発し、北王子の手を休めることなく20枚描ききらせたのであった。

「ぶはぁ!!」

ようやく真理との同調から解放された北王子は、大きく息を吐き出し机に突っ伏した。

汗びっしょりとなり、ゼエゼエと肩で息をしている北王子に向かって、北王子が部屋に入ってきたときと同じ笑顔で労う。

「お疲れ様です。北王子さん。素晴らしい力です。今後もお願いするときがあると思うので、その時もまた頑張ってくださいね」

北王子が顔を上げると、タオルと冷たいお茶のペットボトルを差し出す女神がそこにはいた。

「ゼエゼエ・・・。ぼ、僕は・・いったい・・・どんなことを・・どれだけ・描いた・・ゼエゼエ・・ですか・・?でも、お役に・・立てた・・ゼエゼエ・ようで・・ゼエゼエ・・・よかった・・・です」

真理に向かって何とかそう言うと、再び机に突っ伏した。

「ええ、ありがとうございます。では私は、次の予定がありますのでこれにて失礼しますね。ゆっくり休んでから引っ越し作業に戻ってくださいね」

真理は、肩で息をして突っ伏したままの北王子にそういうと、描いてもらった絵20枚を丁寧にクリアファイルに挟み、自身のバッグにしまうと北王子一人を残して応接室を後にした。


【第8章 三つ巴 22話 自動絵画終わり】23話へ続く

第8章 三つ巴 23話 神田川のお節介と悪だくみ?

第8章 三つ巴 23話 神田川のお節介と悪だくみ?


「ここです」

真理は、美佳帆から借りたもう一人の人物に、目的の建物を指しながら振り向く。

「こ、これ全部、宮コーが持ってんのか・・・?」

マンションの手前で見上げながら、和尚こと菊一探偵事務所副所長の豊島哲司は生返事を返した。

「いえ、各部屋の所有権は色々ですわ。管理会社と警備はうちがやってますけどね。それより、けっこうな頻度で来ていただくことになると思いますが、場所は憶えて頂きましたよね?」

「ああ、問題無いで。このあたりで迷うことなんてあらへんからな。それにしても、えらい会社から近いな」

哲司がそう言ったの無理はない、支社のある梅田駅前から南に500m程度歩いた繁華街の中、少し奥まってはいるがそのマンションは聳え立っていたのだ。

外装はレトロな土色のタイルで、植栽も綺麗に手入れされていた。地下は駐車場らしく、その入り口はゲートがあり警備員が2名待機しているのが見える。

真理に気が付いていた警備員が、真理と目が合うと軽く一礼をしてくる。

「このマンションは15階が佐恵子の私物。14階に私と加奈子の部屋があります。宮コーの警備員も13階に3交代勤務で詰めてまして、このマンションの警備を24時間体制でやっております。14階と15階には直接エレベーターで乗り付けることはできません。エレベーターは13階までしかないのです」

真理は、警備員に笑顔で手を軽く上げて応えながら、哲司に説明をする。

「なるほどな・・。それで、俺を連れてきたんはどういった理由からやねん」

いま、14階に稲垣加奈子が待機しているそうだが、真理は加奈子を伴って出かけなければいけない仕事があるらしい。

その留守の間、支社長の警備をお願いしたい、とのことと聞いてはいるが、いくら自社の社員になったからとはいえ、哲司と宮川支社長が顔を合わせたのは3日前である。

「えらい信用してくれてるんやな・・?神田川主任?」

「あら?豊島さんは信用できない方なのですか?」

真理に疑問を投げかけてみたが、目をぱちくりとさせながら首を傾げ、意外そうな顔で聞き返してくる。

「う・・。そんなことあらへん・・!そんな男ではないと自信をもって言えるんやけどな、それは絶対なんやけど、なんせ、あんたらに会(お)うたんは、つい3日前やで?」

それに対し、哲司は手を振りながら少々大げさ目に否定をする。

「大丈夫ですよ。・・・佐恵子は豊島さんに感謝してました。私も寺野さんに抱き起されながら見てましたけど、豊島さんが佐恵子の前に飛び出してきて、刀を白刃取り・・・。もし、刃を取れなくても、ご自分の身体で受ける・・。そういう覚悟が見て取れました。間近で、いた佐恵子もそれを感じたんだと思います。身体を張ってくれているって・・。殿方の登場シーンとしてはとてもにくいです。・・佐恵子にとっては、豊島さんの行動は衝撃だったと思いますよ。それに佐恵子はあの時、豊島さんのオーラを見てました・・」

真理は笑顔でそう言い「行きましょうか」と哲司を促し、マンションのエントランスへと歩いて行ってしまった。

「・・狙ったわけやないんやけどな」

歩いていく真理の後ろ姿を見つつ、先日手渡された二つ折りになった名刺を開きポツリと呟いた。


13階と表示されているパネルが点灯し、エレベーターのドアが開く。

普通のマンションとは違い、13階フロアは広く、そこは受付ようなカウンターがあり、警備員が8人ほどデスクワークをしていた。

「おかえりなさいませ。神田川主任」

「ええ、ただいま。変わりはないですか?」

デスクワークをしていた壮年で屈強な体格をした男が、真理に気が付くと丁寧な挨拶をしながら立ち上がった。

真理も体格のいい男に近づきながら笑顔で挨拶を返す。

「はい、特には異常ございません。稲垣さんから、スイーツの買出し依頼があったぐらいです」

「そうですか。佐恵子も香奈子も甘い物好きですからね」

真理に対して、丁寧な対応をしている体格のいい男は、真理の後ろにいる哲司に少し視線を送り、遠慮がちに真理に聞く。

「あの主任。そちらの方は?」

「ええ、紹介しますね。こちら豊島哲司さん。今度、うちにできた調査部門の副部長さんです」

「ど、どうも、初めまして豊島です」

「こちらこそ初めまして。わたくしは関西支社警備部門長の八尾と申します。今後ともお見知りおきください」

突然自己紹介をする羽目になった哲司が、言葉足らずな挨拶しかできないのは無理がないので、真理が補足で八尾に説明をする。

「こちらの豊島さんは、佐恵子の警備もしていただこうと思っています。ですので、豊島さんが通過するのも、承認なさってください」

「え?支社長はご承認されているんですか?」

「ええ、確認取っていただいても大丈夫ですよ」

「わかりました。主任がそうおっしゃられるなら、わざわざ確認の必要なないと思います」

「ありがとう。では、豊島さんこちらです」

13階から上階に行くには2通りである。どちらも階段なのだが、通常の階段と非常階段だ。そのどちらにも警備員がおり、交代勤務で24時間詰めている。

「えらい厳重やな・・」

「13階より上だけですよ。こんなにいっぱい警備員がいるのは」

前を歩く真理が振り返らずに、哲司の独り言に答える。

14階を素通りしそのまま階段で15階まで上がると、大理石でできた広いエントランスに植栽と人工池があった。

床は真っ白の大理石が敷き詰められ、正面には木製のドアがあった。

その奥が佐恵子の部屋なのであろうと、哲司は推測した。

「真理―。お疲れ様―」

「ええ。加奈子もお疲れ様」

広く白いホールを見回しキョロキョロしていた哲司だったが、池の畔に座り込んで、鯉に餌をあげていた加奈子に気付き会釈をする。

「先日はどうも」

哲司も、真理に続いて加奈子に一言だけ挨拶し、軽く頭を下げた。

「あー。やっぱり、このあいだの白刃取りの彼じゃん。あれ凄かったね。おかげで佐恵子が無事ですんだわ。ありがとう」

最初は軽い口調で話しかけてきていた加奈子であったが、あの場面を思い出したのだろう、哲司に対してお礼を言うと深々と頭を下げた。

「改めて私からもお礼申し上げます」

「いやいや、そんな大げさなん、かまへんって・・・。身体が勝手に動いてしもたんと、人生に一度はやってみたいと思ってたんや、石舟斎を真似て無刀取りってな?・・上手くいってホンマによかったわ。あの女の剣筋が思いのほか鋭くて、ちびりそうだったんは内緒やけどな・・・ははは・・。あれ?おもんない?ここ笑うところやで・・?ちょっと待ってや・・・美人2人の前でスベルんはさすがにキツイって・・・」

真理からも頭を下げられ、タイプの違う美女二人に頭を下げられっぱなしの哲司は、なんとか空気を和まそうと冗談を飛ばすが失敗してしまったようだ。

ようやく二人に頭を上げてもらった哲司がほっとしていると、少し奥にある木製の扉の横についている、スピーカーから声がした。

「加奈子?真理がきたんでしょう?交代して休んでいいわよ。それに、それ以上、鯉にご飯あげたら、調子悪くなっちゃうわ・・・。真理もお疲れ様。いっぱい仕事溜まっていたでしょう・・?全部押し付ける形になってしまって悪かったわね。夕方にはだいぶマシになると思うから・・・」

姿は見えないが宮川佐恵子の声だ。

「大丈夫ですよ佐恵子。ゆっくり休んでください。それより、佐恵子に言われていたあのモブの実験をしたいので、加奈子を借りたいのですけどよろしいですか?」

「え?真理しゃん。それだとここがお留守になっちゃうじゃないですか」

佐恵子の代わりに答えたのは、真理の隣にいる加奈子であった。

「ん・・。なるほど・・・真理しゃんらしいといえば、らしいです」

哲司をチラリと見た加奈子は、哲司と真理の性格と思惑に感づき、じっとりと真理を見ながら呟いた。

「どういうことですの?」

誰も能力者の護衛が居なくなってしまうのではと思った佐恵子が、スピーカー越しに聞こえる真理と加奈子の会話に入ってきた。

「佐恵子、加奈子の代わりに豊島さんに護衛をお願いします。腕は確かですし、人間性も問題ないのは佐恵子もご存じのはず・・・よろしいですよね?私も今日佐恵子が出勤できなかったので、仕事が立て込んでて、どうしても加奈子にも手伝ってもらいたいんです」

問いかける佐恵子に真理が笑顔でさらりと答える。

「え?・・・とよしまさんって・・豊島哲司さま?」

「はい、豊島哲司さんです」

「ちょ!・・ちょっと真理!先に連絡しなさいよ!え・・?私、全然人に会えるような恰好じゃないのよ?・・・。もう・・真理!いつ来るのよ?哲司さまは!」

「もうここにいます」

「あ、ども。豊島です」

真理に手で促され、マイクに向かって哲司は短く挨拶する。

「真理・・。あなた本当にそういうところあるわよね・・・。・・・豊島さま・・、お見苦しいところお聞かせしましたわ・・。身支度するので、しばらくお待ちください・・。」

プッと小さな電子音がした。どうやら一方的に通話は終了されてしまったようだ。

笑顔の真理、やれやれという顔の加奈子、なにがなんだかという顔の哲司がホールに佇んでいたが、真理が口を開く。

「じゃあ、加奈子、参りましょうか?」

「え?支社長の支度が終わるの待たないの?」

「支度ったって、佐恵子は出かけるわけじゃないから待たなくてもいいわよ。それより、私は、夕方にはまた支社に戻りたいから、もう行かないと遅くなっちゃうわ」

「うーん・・。あとで真理しゃんが支社長に怒られてくださいよ?」

「怒られることなんてないってば、さあもう行きましょ。哲司さん、しばらくここで待機しててください。夕方にはまた連絡いれますから。あとこれ」

真理は加奈子に大丈夫と念押しおし、哲司には簡単に説明すると、カードを2枚手渡した。

「ここで待機してたらええんかな?宮川さんの部屋の護衛ってことやな。了解やで。で、これは?」

「14階に哲司さまのお部屋もご用意してあります。もし泊りになるほど、遅くなってしまった場合はそのカードで部屋にお入りになって、自由に使ってくださって大丈夫です。もう一枚は、この扉の予備のカードです。・・・使う機会はないかもしれませんが、万が一と言うこともありますので、一応お渡ししておきますね」

「そんな遅くなるかもしれんのかいな・・。しゃーないな・・」

真理に説明された哲司が、少し唸ると

「部屋には食べ物もありますし、13階の先ほどお話した、八尾さんにお願いしたら、出前も取ってくれますよ。肌着の着替えも部屋にはありますし、頼めばクリーニングも出しておいてくれます。少し退屈かもしれませんが、ここの警護は重要なお仕事です。お願いしますね、豊島さん」

「ああ、了解や。神田川さんも稲垣さんも忙しんやろし、ここは任せとき。鯉でも眺めながらうろついてるさかい」

白い歯を見せいい笑顔で言う哲司に

「お願いしますね。じゃあ、加奈子いきましょう」

真理はそう言うと、加奈子と階段に向かう。

「お願いしますねー豊島さん」

加奈子も階段を下りながら手を振り、哲司に挨拶をする。

「さて・・、ここで何してろっていうんや・・」

真理と加奈子の姿が階段から見えなくなってから、誰にも聞こえない大きさの声で小さく呟いた。

(しかし・・・あの時は、宮川さんを守れたが、あの髙嶺いう所の、眼鏡の美人剣士が、次に来たら、果たして宮川さんを守れるかどうか・・・あんな若そうな女やのに、恐ろしい腕に、能力あったよな・・・次やりあう事があったら、命がけやわなぁ・・・やっぱり、美人に2度と会いたくない思うんわ初めてやわ・・・)

そんな事を、考えながら哲司が、佐恵子の警備の任に就いていると、背後からガチャリと金属音がして木製のドアが、意外に音もたてずに、少しだけ開いた。

【第8章 三つ巴 23話 神田川のお節介と悪だくみ?終わり】24話へ続く


第8章 三つ巴 24話 実験

第8章 三つ巴 24話 実験

真理は薄い緑のブラウスに、タイトスカートのスーツ姿のままだが、加奈子はスーツから動きやすいラフな格好になっていた。

ここは、病院にほど近い施設で、普段はリハビリなどで軽く運動するための体育館のような場所である。

事前に真理は、この施設をある目的で使う為、予約しておいたのだ。

黒いタンクトップに、黒のトレーニングパンツを履いた美女が、視界を遮った自身の色素の薄い前髪を右手でかき上げる。

脚は長く、出ているところは出て、引っ込むべきところは引っ込んだ体形の加奈子は小さく嘆息する。

「真理ぃ~まだやるの?」

仰向けになり荒い呼吸をしているモブから視線を外し、加奈子は振り向き真理に嫌そうな声を上げる。

「ええ・・・。もう少しやってみましょう。この間と違い過ぎて、辻褄が合いません・・。今度は、できるだけこの間の状況を再現しましょう」

真理は手に持ったバインダー上の用紙にペンを走らせ、加奈子に向けて顔を上げると提案する。

「はーい・・。じゃあ、支社長がこの子を足刀蹴りで蹴り倒すってところの再現からでいいかな?」

「ええ、やってちょうだい」

「おい!冗談じゃねえよ!!」

美女二人の、人権を無視した会話に突如大声で不平を口にし、乱入してきたのは、もう一人の当事者、モブこと茂部天牙である。

「なによ。警察に突き出さずに保護してあげてるじゃない。文句言わずに協力しなさいよ」

振り返り、ずいっと一歩進んでくる稲垣加奈子にモブはびくっとなる。加奈子本人にとっては何気ない行動なのかもしれないが、先ほどから加奈子とは何度も手合わせをさせられている。

稲垣加奈子の格闘スキル、センス、スピード、経験すべてにおいてモブとは段違いで、何度かの手合わせでも、モブは全く歯が立たないどころか、加奈子に触れることもできず、何度もノックダウンさせらていた。

当然加奈子自身、手加減はしているのだが、野性動物に比肩する運動能力の彼女はモブにとって強敵すぎた。

普通なら怖気づいてもしょうがない相手ではあるのだが、モブはいい意味でも悪い意味でも勇者である。

「くっそー!やられっぱなしでいられるかよ!うぉぉぉぉおぉお!」

「そうそう。こっちだって好きであんたなんかの組手をしてるわけじゃないんだからね」

いまいち加奈子の実力と見た目のギャップを認めたくないモブは、馬鹿正直に正面から突進し右手を振りかぶって殴り掛かった。

殴った後、馬乗りになりおとなしくさせたら、黒い生地の少ないタンクトップに窮屈そうに納まっているデカい胸でも触ってやろうかと、邪な妄想がモブの小さい脳に浮かんでくる。

加奈子は迎撃するべくゆっくりとした動作で構えなおす。モブの視線や僅かな動きで、邪な考えも手に取るようにわかる加奈子であったが、如何せん・・

「遅すぎる」

加奈子は一言モブを評価すると、モブは「ぐえっ」と声を上げ、振り上げた右手を突き出す前に、逆エビ反りの格好で停止する。

外聞など気とめる暇もなく、無様な声を発したとき、モブの顎には加奈子の足刀蹴りが突き刺さっていたのだ。

当然モブの煩悩思考はストップさせられ意識はブラックアウトする。

「うーん・・。この子がなぜあんな動きができたのか不思議でしょうがないです・・。動きはまるっきり素人、オルガノってところにいたボクサー崩れたちのほうがよっぽどマシです。・・・真理しゃん、なにか気づいたことあります?」

逆エビぞりの格好から、背中から地面に崩れ落ちたモブを一瞥し、加奈子は真理に問いかける。

「ダメね・・・。格闘センスも、なにかしらの能力も感じないわ。でも、流石に今のはダウンしちゃったけど、いままで、加奈子に相当に打込まれてるのに彼すごく頑丈ね・・・頑丈と言うより・・・なんて言うのかしら・・・」

首をかしげる真理に、加奈子も同意する。

「そうなのですよね。それは感心するところ。あ、しまった、やりすぎたかな?と思っても、案外すぐ復活するし、真理しゃんに一度【治療】してもらったとは言え、相当打たれ強い部類。・・・それが取り得って感じですね・・。でも、八尾さんたち警備の人にかかったら、まったく通用しないレベルでもあるのが、悲しいところ・・・」

「でも、それだけだとあの佐恵子を2回も一撃で戦闘不能にした説明がつかないわ・・・。佐恵子もアーマースーツ着てたのよ・・。しかも防御に割り当ててるオーラって佐恵子はかなり強いほうだし。・・平均的な能力を使えない成人男性で、佐恵子に勝てるかしら?」

「・・・無理・・かな。事前情報と準備があったとしても、難しすぎると思う。目を使わなかったとしてもダメ」

真理の質問に少し考える素振りを見せたが、加奈子がきっぱりと断言したため、のびて倒れているモブを二人で眺め、更に不思議がる。

すでに少しモブの相手をするのには退屈になった加奈子が、欠伸をし、大きく背伸びをした。真理は、口元を抑え少し考え事をしていたようであったが、もしかしてと思い加奈子に問いかける。

「加奈子。今オーラどうしてるの?」

「どうって・・。まったく使ってないわよ」

背中を伸ばしながら、腕の柔軟もしつつ加奈子が答える。

「全く使ってなかったの?じゃあ、次から使ってみて。この間みたいに」

「え?この間みたいにって、あの子どうなってもいいの?・・私は正直その子がどうなってもいいんだけど・・・」

冗談で言ってないであろう加奈子の発言に、実験に付き合わせたことに対して、少し申し訳なさそう顔をしながら言う。

「・・手加減はしてあげてね。でも、きっと大丈夫よ。彼、加奈子の猛烈な体当たりを受けても死ななかったじゃない。・・そのあと、彼は佐恵子に全く同じ技を繰り出した・・・。もしかしたら・・。ねえ、加奈子。ちょっと試してみたいの。能力使って?何でもいいから、軽く彼に打ち込んでみてよ」

「いいけど・・。真理の負担が重くなるわよ?彼の負担も重くなるのは自業自得だけど・・って、本当にタフね・・」

立ち上がった気配を感じ取った加奈子が、モブに向かって振り返る。

「ほんとうに・・」

立ち上がったモブを見て真理も加奈子に同意する。

「てめえら・・。いつまでこんなことやらせんだ!俺を甚振って楽しんでやがるのか?!ええ?!このサディストどもが!」

「ぷっ!あははは・・!真理しゃん言われてますよ?それに、あんたなんか甚振って楽しいわけないでしょ」

「どもって言ってるでしょ?加奈子も含まれてるのよ。・・ねえ、茂部君。わたしたち・・」

真理はお腹を抱えて笑う加奈子を少し睨んだが、すぐに普段の顔に戻るとモブに話しかける。

「モブって言うんじゃねえ!」

「モブって言うなって・・!あははは・・だって、モブって名前じゃん・・バカじゃん・・おなかいたい・・!・・・たしかに・いひひひ・・お腹痛いって」

真理とモブとのやり取りを聞いて、更に加奈子がお腹を抱える。

「ちょっと静かにしてよ加奈子。・・・加奈子の気持ちは分かるけど・・・。話ができないじゃない。それに、事実じゃないし、笑うところでもないわよ」

加奈子と真理のやり取りを睨んでいたモブだが、まともに加奈子や真理とやり合っても、勝てないことは分かっているので顔を歪めて憮然とした態度で言う。

「なあ!もう、帰ってもいいだろ?あんたらの実験ってのには付き合ってやったじゃねえか。まったく・・ケンカはしょっちゅうしてたけど、一日でこんなに殴られたの初めてだぜ・・・おい!茶髪のねーちゃんよ!痛ってえんだよてめえはよ!・・美人でもそんなんじゃ嫁の貰い手もねえんだろ!?・・・しょうがねえな・・ツラはいいから俺が仕方なくかわいがってやるぜ?へへへ・・」

モブの調子に乗った発言に、加奈子の表情が変わり、加奈子を中心に一気に温度が下がる。

「あんたねえ、・・・もう限界・・。あんたのせいで、支社長があんなことになって、危なかったんだから。本当ならあんたなんて・・・」

先ほどまで笑っていた雰囲気はまるでなく、今の加奈子の言葉には怒気が混ざり、目尻を吊り上げ、殺気の籠ったオーラが漏れ出している。

「ストップストップ加奈子・・。一番ひどくやられた佐恵子が承知してるのよ?そう話し合って決めたでじゃない?・・えっと・・じゃあ、今日はこれが最後にします。ええっと・・天牙君?」

「ふん」と不服そうに黙った加奈子が、腰に両手をあて、床を右足のつま先でダンダンと蹴って黙った。

一瞬ではあったが加奈子の殺気にさらされたのと、真理が天牙と呼びなおしてくれたことで、モブは怯えから、素直に真理に向き直り冷や汗を流しながら答える。

「・・・あ、ああ、いいぜ。絶対次が最後な?」

「・・・言葉遣いに気をつけなさいよ。あなたよくてブタ箱行きで、悪けりゃ私に殺されててもおかしく無いことを自覚しなさい!・・・支社長や真理が言うから、仕方なく機嫌のいい振りして付き合ってあげてるの。そこのところ分かってないんでしょ?・・・ガキだから」

普段の親しみやすい表情は全くなく、かなり不機嫌になった様子の加奈子が、髪をかき上げながら顔を上げモブを睨む。

「・・・オーラ込めて強く殴るとあんた程度じゃ死ぬと思うから、仕方なく手加減してあげるわ・・。でも、気をつけなさいよ?・・・私の気が変わるかもしれないでしょ?」

加奈子の発言にモブは無言ではあったが、加奈子の殺気に当てられ真っ青になり、ゴクリと喉をならし表情が引きつっている。

「はっ!」

加奈子の発する殺気に、怖気て怯え切ったモブの返答を待たず、加奈子は気合の発声と同時に、モブ目掛け間合いを詰めた。

だん!と加奈子が左足を踏み込む音が響きわたり、それとほぼ同時にモブの胸の中心部には掌底突きが決まっていた。

千原奈津紀という強敵の出現、茂部天牙という雑魚の思わぬ攻撃、それらの偶然が重なったとはいえ、宮川佐恵子という護衛対象を守り切れなかった加奈子は、その原因の一つの茂部天牙に対して大いに思うところがあった。

加奈子は直情的なところもあるが、馬鹿ではないし寧ろかなり聡い、しかも見た目に騙されやすいが思慮も深い。

真理も、長年の付き合いで、そのあたりは加奈子を理解しているため、それ以上窘めなかったのだ。怒ってはいても、怒りに任せてモブを力任せに攻撃したりはしないと分かっていた。

加奈子はモブにヒットする瞬間に、後方へ手を引き威力を半減させたのだが、どすっと鈍い音がしてモブは1mほど後ろに吹き飛び、そのまま両足で着地した。

「どうかしら?」

手加減をしたとは言えオーラを込めた掌底打を放った格好のままで、加奈子が誰ともなしに言う。

モブは、綺麗に着地したかのように見えたが、直ぐに両ひざを地面に付き、打たれた胸を押さえながら、床に突っ伏した。

「~~~っ!!」

胸を撃たれた衝撃で呼吸が止まり、突っ伏したまま苦しそうに脂汗をかくモブ。

そのモブに向かって真理が言う。

「天牙君。加奈子に反撃して」

「さすが真理。このポーズをとってる男性にそのセリフ・・・。やっぱりサディスト・・」

両膝と額を床に付けて悶絶しているモブに対して、真理が無茶な要求をする。

表情から怒気の消えた加奈子が、少し呆れ気味な口調で、真理のほうを向きなおり軽口を叩いていると。

「ほら、加奈子!・・彼立ったわよ。・・やっぱり私の【治療】も・・取り込んで・・いえ・・少し違うようね・・」

真理が少し慌てた声で、加奈子に喚起する。

真理の声に少し驚き、加奈子は踵を返すと、胸を押さえ、ふらつきながらもモブは立ち上がっていた。

「ゼェゼェ・・痛ってえ・・・。・・ぜぇぜぇ・・・何度も何度も殴りやがって・・・!そう言う実験なんだろ?!・・言う通りに殴り返してやるからな!」

「ふん!・・いらっしゃいな!」

加奈子はモブに対して顎をしゃくりながら手招きし、構えようとした瞬間、モブが3mほどの距離を一気に詰めてくる。

「ん!!?」

猛スピードで迫るモブを見ながら、加奈子はその速度に肌が粟立つのを感じた。

しかし、加奈子は戦歴1000以上の経験から驚きながらも冷静にモブを観察する。

踏み込みの一瞬手前で、掌底を相手の胸に当て、その後に踏み込みを行い、全体重を掌底に乗せるという地味だが見た目以上の破壊力を持つ技、この技を会得するには相当な練習量が必要だ。

(これは・・、私の技?・・こんなチンピラ如きにおいそれと真似できるものなんかじゃない・・。佐恵子や真理でも上手にできないのよ?・・それを完璧に・・・?!)

加奈子はモブと対峙して初めて、真剣な顔になりモブの右手掌底打を半身になり左手で受け流す。

もしもモブが自分の動きと同じような動きができるのなら、容赦できる相手ではない。

加奈子は、そう判断するとモブの掌底を受け流し、半身になった身体を更に、躍歩し右脚で、モブの右脚の膝裏を蹴り抜いて、モブの膝を床まで打ち落とし、同時にモブの左手と頭を押さえつけ動きを封じる。

「痛ってえええ!ギブギブギブ!!」

「・・・・・ん」

モブの背中に伸し掛かって腕と脚を本気でキメていた加奈子が、慌てて力を緩めるが、キメた態勢は崩さない。

「まるっきり加奈子と同じ動きだったわ・・・。空振りだけど・・」

バインダーにペンを走らせながら、驚いた表情で真理が呟く。

「いやいや、そこは避けますよさすがに・・」

モブに抵抗の意思とオーラが感じられなくなったのを確認したうえで、モブの上から退いた加奈子が、真理を僅かに非難する。

「あ、そういう意味じゃなくてね。でも、何となく彼の能力がわかったかもしれないわね。何度か実験してみましょう・・。【治療】も必要みたいだし、続けて試したいことがあるの」

「ま、まだやんのかよ?勘弁してくれよ・・最後って言ったじゃねえか」

「【治療】するだけですよ天牙さん。今日はもう、痛い実験はしませんから安心してください」

真理の発言にホッとした顔になり、床に大の字になりモブは寝転んだ。

加奈子はモブに対しての蟠りが晴れたわけではないが、ずっとそういう感情に構っていることができない性格でもあったので、ひとまずモブのことで、周りに感情を露わにすることを止めることに決めた。

そして加奈子は小声で「今日は、ってところが真理しゃんの抜け目ないところなのです」と呟いたが、その声は誰にも聞こえなかった。

【第8章 三つ巴 24話 実験 終わり】第25話へ続く
筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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