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第8章 三つ巴 25話 不器用で実直な2人

第8章 三つ巴 25話 不器用で実直な2人


分厚い木製の扉が少しだけ開き、その隙間からまずは白い手が見えた。

あの・・、豊島さま。大変お待たせしました。そこでは満足に座るところもございませんし、中にお入りください」

黒い髪、白い肌をした佐恵子が僅かに顔を扉から覗かせ伏し目がちに、豊島哲司に話しかける。

「あ・・え・・よろしんですか?神田川主任にはここで待機しとってくれといわれてるんやけど・・・」

大丈夫です。私の護衛のお仕事ですし、加奈子や真理も普段は部屋で一緒に過ごす時も多いのですよ・・・。今日はたまたま加奈子には外でいてもらったのですが・・・。あ・・それより今はまず命の恩人にきちんとお礼を言わせてください。それには、ここでは立ち話になってしまいますので・・、どうぞお入りください」

佐恵子は伏し目がちのまま哲司の顔を見ずにそう告げると、扉を大柄な哲司が入れる程度まで開いた。

哲司は佐恵子を見て思わず無遠慮に見つめてしまう。

先日あった時の佐恵子と、いまのカジュアルな部屋着の佐恵子とはまるで印象が違ったからでもあるが、基本的にはもともとインスピレーションで好みだと感じていた為である。

哲司はこの至近距離ではあったが能力を無意識に発動させてしまい視力強化してまじまじと佐恵子を見つめてしまっていた。

間近で見る宮川佐恵子は思いのほか背が低く、華奢に見えた。なぜか僅かに汗ばんだ肌は白くきめ細やかで、首や鎖骨はなんとも女性的な先日、張慈円がアジトに使っていた倉庫で見かけたときは、傷つきながらも、佐恵子の印象は尊大で周囲を見下したような雰囲気を感じられる部分があったのだが、今の佐恵子にはそれがなく、年齢の割には落ち着いた雰囲気がある清楚な女性に見えた。

「今日もうこのセリフ何回も言うたんやけど、ホンマ気にせんといてや。俺も平気やったし」

「何回も・・。そうですか・・、加奈子や真理にも言ってくださったのですね」

今の佐恵子は上下アイボリーのゆったりとしたルームウェアを着ていた。トップスはオフショルだーで丈は腰程度まであり、ボトムスは同じくゆったりとしたワイドドレープパンツ姿であった。

「こんな姿で申し訳ございません・・。でも、豊島さまをあまりお待たせするのはいけないと思いまして・・・」

「そんな気ぃつこてもらわんでも・・・」

遠慮がちな哲司の発言を聞き流し、佐恵子は哲司を室内に入るように促す。

扉をくぐり少し歩くとリビングなのか、応接室なのかよくわからない広い部屋に通され、促されるまま低反発のソファに座って待っていると、佐恵子がコーヒーが入ったガラスポットとカップを二つトレイに乗せて持ってきた。

「雇い主である支社長さんにそんなことしてもろて、なんか恐縮してしまうな」

女性の部屋に入ってお茶を入れてもらう。そういったことに緊張してきた哲司は気を紛らわそうと少し大きめの声で佐恵子に言ってみたが、佐恵子は穏やかな表情で哲司に笑顔を返し、袖を抑えながら哲司の前に湯気の立つコーヒーカップに注ぐ。

そして佐恵子は「どうぞ」と言いソーサーの上にカップを置くと、自らも哲司の向かいのソファに浅く腰掛けた。

二人ほぼ同時にカップに手を伸ばし、コーヒーを啜る。

心地いい空調の聞いた部屋で熱いコーヒーを啜る音と、天井に設置されているシーリングファンが風を起こす音だけが僅かに聞こえる。

『あの・・』

二人の声が重なった。

「あ!支社長どうぞ!」

「いえ・・!豊島さまのほうこそお先に・・」

お互いに異性に不慣れな者どうし遠慮し合っていたが、ここは哲司が先に切り出す。

「あ、あの・・、支社長はこの部屋にお一人で住んでるんですか?」

「・・ええ」

「はは・・、そうでっか。いまもほかには誰も居らへんのんですか?」

「・・・ええ、そうですわ」

「ははは・・、支社長さんみたいな若くて美人の女性の部屋に通してもろて二人っきりとなったら、勘違いしてしまう輩も多いかもしれへんし、気ぃつけなあきませんな!・・・はは、、俺は、全くその点は信用のおける男やから安心してくれてええんですけどね!ははは・・」

(な、なに言うとんや俺は!かなりアホな発言してもうてるで!!・・・あかん!めっちゃ意識してしまうわ!・・・平常心を取り戻すんや!哲司!・・・いつからそんな狼狽えるようになってもたんや!・・・・南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・・!)

変な会話になってしまったと思い、寺の息子らしく心頭滅却させようとしていると、正面には固く閉じた膝の上に手を置き、目を伏せ、床の一点を見つめながら顔を赤くして無言でいる佐恵子が目に入った。

(う・・!な、なんやこの反応と表情は・・・、どうやら怒ってはなさそうや・・・。俺のアホな発言、大丈夫やったんとちゃうか・・・?むしろ、いけたんか?めちゃキレられるんかと思たけど・・・大丈夫な感じやな・・・・。それにしても、めちゃ可愛らしいやないか・・・・。もしかして、こないだの俺の白刃取りの出会いで、ホンマに白馬の王子効果が出とるんやろか・・・?)

哲司は正面に座ってモジモジしている佐恵子をつい凝視してしまっていると、その視線に気づいた佐恵子が慌てた様子で立ち上がった。

「わ、わたくしとしたことが・・、お茶請けも用意せずに・・、す、少し失礼致しますわ・・」

顔を真っ赤にした佐恵子は哲司の返答も待たず、スリッパの音をパタパタとさせながら奥の部屋に歩いて行ってしまった。

「あ!・・そんなんホンマに気にせんでください・・」

哲司は慌てて佐恵子の後ろ姿に声をかけるが、佐恵子はパタパタと音をさせて奥に消えてしまった。

「な、なんや・・・あんな表情みせられると年甲斐もなく緊張してまうな・・あつぅ!!!」

哲司は佐恵子の去った奥の部屋を見ながら呟くと、まだ熱いコーヒーを思い切り口に含んでしまい、一人で吹き出し、吹きこぼしたコーヒーを拭き掃除する羽目になっていた。


「はぁはぁ・・・ま、真理ぃ~・・!・・・恨むわよぉ・・・。なんで今日に限って豊島さまを連れてきたのよ・・・」

大理石でできたアイランドキッチンのワークトップに突っ伏し、佐恵子は恨み節を独白した。

オーラの枯渇した佐恵子は何故かある一定までオーラ量が回復するまで、性欲が我慢しがたい程に溢れてしまうのだった。

今日の早朝に冷静付与の効果が切れてしまい暫く我慢していたのがいけなかった。我慢してしまったせいで触り出してしまった反動は大きく、真理と哲司が来る少し前まで一人で慰めていたのである。一人で1時間ほど慰め、何度も果て少しは落ち着いていたのだが、哲司と話という話もしないうちに下腹部がうずきだしてしまったのだ。

普段【冷静】を付与し続けている反動なのかもしれないが、付与が切れるとどうしても少し疼いてしまう。

しかも、ある一定までオーラが回復しないと、【冷静】のようなほぼオーラを消費しないような技能すら使えなくなってしまう。

このままでは不味いと思い、佐恵子はまだ使えないだろうと分かってはいたが、一応【冷静】を自身に付与しようと、目に力を集中する。

「・・・うう・・、だ、ダメだわ・・・上手く練れない・・・こんな簡単なこともできなくなるなんて・・・」

佐恵子は続けて何度か技能を使えないか試してみたが、やはりまだダメだったことに焦る。

(す、少し・・・すっきりしたほうが・・・、いえ・・何を考えているの・・・。今更いきなり豊島さまを外に追い出すなんてことも・・・ダメ・・・変に思われるわ・・・。それに、まだお礼も一言も言えてないというのに・・・・!ああ・・こんなことになるなんて情けないですわ・・・)

ダメだとは頭ではわかっているが、佐恵子は丈の長いワイドドレープパンツの裾を太ももまでまくり上げ、手で下着の上から女芯を摩った。

(はぁああん・・)

声こそは我慢できたが、佐恵子は背中を反らせ、顎を突き出し快感に酔いしれた顔を上げた。

(こ、こんなの・・我慢できない・・。やはり一度だけ・・・んん・・!)

佐恵子はキッチンの床に膝立ちになり、下着の上から既に堅さを帯びた陰核を擦っていた右手を黒いショーツをずらして脇から指を入れて這わせた。

くちゅ・・。

「あぁ・・」

佐恵子は意図せず僅かに漏れた喘ぎ声に慌てて、左手で口を押えて塞ぐ。

(うぅ・・・気持ちいい・・)

声を出すまいと下唇を固く噛み、鼻を鳴らしながら右手を動かす。肩幅ほどに開いた膝立ちの格好で、おでこをキッチンのキャビネットに押し付け、あさましく右手をを動かし続ける。

照明も付けていない薄暗いキッチンに、卑猥な水音と、かみ殺した荒い息づかいだけが僅かに響き、発情した雌の匂いが充満しはじめた。

佐恵子の右手の動きが一段と早くなり、全身に力が入ったかと思うと、「うぐっ!はぁ・・ん!」と下唇を噛みしめ我慢していた口からは、堪えきれない嬌声が漏れ、膝でぐいぐいと床を擦り、脚の指は固くと閉じ全身をガクガクと小刻みに激しく震わせた。

「はぁはぁはぁ・・・うぅ!」

一度果てれば落ち着くと思っていたのは嘘である。そう思い込みたかっただけで、一度始めてしまうと次を求めてしまう可能性のほうが高いと佐恵子は最初から分かっていた。

キッチンの床に膝とおでこを付け、左手はトップスを捲りノーブラの薄い胸の突起を摘まむ。
パンツの裾から入れた右手は相変わらず股間をまさぐり、突起した陰核と濡れぼそった膣を交互に責める。

ワイドドレープパンツの右脚側はほとんど捲りあがり、右脚はほぼ露出している状態である。

(はぁはぁ・・こんなこと・・いけませんわ・・。豊島さまがリビングにいらっしゃるのに、早く戻らないと変に思われてしまいます・・・。・・でも・・あと一回・・あと一回果てたら・・)

「あぅ!」

甘美な快感が股間から腹部にまで広がり、あげまいと堪えている声が漏れてしまう。声が漏れると同時に、身体が痙攣しゴツンと頭をキッチンにぶつけてしまう。

これ以上声を出すと気づかれてしまうかもしれない、哲司も能力者なのだ。聴力強化をしているかもしれない。

そう思ってしまった瞬間、もともとマゾ気質な部分を持ち合わせている佐恵子の中でスイッチが入ってしまった。

気付かれるかもしれない。こんな姿を見られるかもしれないという濁った感情が、ハイオクガソリンとなり脳に流れ込んでくる。

普段は能力で付与をして精神強化を施しているが、その仮面を今は付けることができない。

せめて声は上げないようにと、浅ましくキッチンマットを噛みしめて、お尻を高く突き上げ、右手で膣内深くを中指と薬指を突き込み、股間の尖った性感帯の裏側あたりを激しく擦る。

キッチンマットをきつく噛みながら、鼻息を鳴らし佐恵子は哲司が来てから2度目の絶頂を自慰で味わった。


佐恵子が退室してから、自分で吹き出して汚してしまったテーブルを拭き終わり、さらに高そうな絨毯に付いてしまったコーヒーのシミを何とか落とせないか奮闘していたが、どうやっても無理なので正直に謝ることを決心した哲司はようやくソファに座りなおした。

「ふぅ・・・しゃあない・・。謝って許してもらうしかあらへん・・。しっかし、高いんやろなぁ・・これ・・まさかこの手触り、シルクか・・・?冗談やろ・・?冗談であってくれ・・絨毯やで・・?」

絨毯について詳しく精通しているわけではない哲司であるが、魚をモチーフとしたメダリオンデザインのウールとは思えない手触りの絨毯を摩りながら呟き、変な汗が噴き出してきているのを感じた。

「・・・しかし、遅いな・・。トイレにでも行ってるんやろか・・・。・・どないしよ・・。様子見てきたほうがええんちゃうか」

時計を見ると佐恵子が席を立ってからもう20分は経っている。

(さすがに長ないか・・?・・・ふむ、俺の仕事は護衛やし、なんかあってからでも遅いしな。声かけながらちょっと様子見に行くべきや・・・。はっ!新参者の俺がどの程度機転が利くのんか試してるんかもしれへん!絶対そうや!そうだとしたらしまったなぁ・・、ちょっと行動が遅かったかもしれへん!)

そう仮定すると哲司は立ち上がり、奥の部屋に向かって遠慮がちに声をかける。

「宮川支社長~・・・。いてますか?なんか問題発生ですかいな?」

暫く返事を待って耳を澄ましてみたが、全く反応はない。

「ふむ・・」

何かを捜索するときや捜査するときに、無意識に身体能力を上げてしまうのはもはや職業病であろう。

哲司は無意識に能力を使い五感を研ぎ澄ます。

(・・・・え・・?)

哲司は聞き間違いかと思い、無意識に発動させた能力向上を聴力に合わせ極限に研ぎ澄ます。

哲司の感覚では、この階層に人の気配は哲司ともう一人しかない。もう一人は言うまでもなく、さっきまでここにいた佐恵子であろう。

そう遠く離れていないところにその気配はあった。

(ふぅーふぅー・・んん・・くぅ・!んんん!・・・・はぁ!・・・ふぅー!)

安定していない呼吸音に混ざってほかの音も聞き取れる。服が擦れる音。粘着質な水音。何かがぶつかる音。呼吸の合間に混ざる嬌声。

「う、嘘やろ・・」

哲司は立ち上がった場所から動けずに、最初はそう呟くのがやっとだった。

自分の能力で得た情報はほぼ正確なのは、今まで経験で分かっていた。何せ間違うと生死にかかわることもあるからである。

それだけ鍛えているつもりでもあるし、自信もあった。

(・・しかしなんでまた・・・こんなタイミングで・・・?バレるやろ・・・?声は押殺してる?・・バレたくはない?・・うーん、わからん!・・しかし、こういうこと考えるんは野暮や・・。イレギュラーが起きた時ほど基本に忠実に任務のみに集中するんや。しかし・・、中島由佳子さんといい宮川支社長といい、何で俺はこういう現場に出くわす傾向にあるんやろか・・?)

数秒だけ考えたが佐恵子が何をしているのかが分かった哲司の判断は明確で早かった。

聴力強化を解除しその他を強化して佐恵子の周囲を警戒し、自分自身はソファに座りなおした。

それから更にちょうど2時間ほど経った。

最初に佐恵子が持ってきていたガラスのポットに入っていたコーヒーをちょうど哲司が飲んでしまったところで、佐恵子が部屋に帰ってきた。

「お、お待たせしましたわ・・」

戻ってきた佐恵子は、部屋から出て行ったときと比べると、顔色や雰囲気は幾分普段に近づいて戻っていた。

「お、支社長。お茶請けを待ちきれんで全部コーヒー飲んでしまいましたけど、よろしかったですか?って・・お茶請け楽しみにしてたんやけど、支社長、手ぶらですやん・・」

「・・・豊島さま。・・・ご心配おかけしました。もう落ち着きましたので・・。お茶請けはまた後で用意いたしますわ」

「どないされたんです?気分でも悪かったんですか?・・それは気づきませんで申し訳ないです」

「ふふ・・、豊島さま・・お優しいのですね・・」

佐恵子は頬を赤く染めながらも、先ほどよりも口調はかなりハキハキしている。

「え、ええ、俺優しいんですわ。たぶん、菊一事務所で一番やとおもいます。ははは」

「・・・本当に、私にとっては実際そうだと思いますわ」

佐恵子はそう言いながら、哲司の向かいのソファに腰を下ろす。

「先日のこと、きちんとお礼を言いたかったのですの・・。本当にありがとうございました。私自身の過信から、あのような窮地に陥ってしまいましたわ・・。豊島さまたちが来なければ今頃私は連れ去られ囚われていたでしょう。・・・正直に申し上げますと、あのとき菊沢様の奥様から応援の人員があると聞いたときは、能力者が多くいるという事には驚きましたが、はっきり言って戦力としては期待していなかったのです・・。いまはその思い込みの軽率さに恥ずかしい気持ちでいっぱいです」

「ええんや・・。宮川支社長。そうやって思えただけであんたの中で何か得たもんがあったんやろうし、結果的に俺ら事務所の人間も優遇してくれるみたいやし、ええことばっかりですわ」

「・・ありがとう」

佐恵子は哲司に素直にそう言うと俯き黙ってしまう。しかし、直ぐに顔を上げ思い切った様子で哲司に言う。

「豊島さま!・・豊島さま・・・あの・・今私は能力が回復してます・・。えっと、きちんと説明いたしますわ・・・。私は能力を使い過ぎると回復に少し時間がかかるのです。その間、護衛を必要としますが、いまはもう能力をほとんど使えます・・・。その・・えっと・・、つまり今は豊島さまの感情も見えてしまうということなのです・・・!」

佐恵子は前かがみになり、顔を赤くして哲司の反応を待つ。

「え、ええっと。ほ、ほな今後も気ぃつけて警護の任に当たった際は頑張りますわ。そ、それと・・俺の感情ですか・・・?」

「ええ、菊沢さまから聞いてはおられないのですか?」

「少し聞いてはおるんやけど・・けど、嘘を見破るとか、もしかしたら人を操作するとかそういった能力かもしれへんって、あくまで推測の範囲の話ですわ・・・」

「そうですわ・・概ね合ってます。そのうち詳しくご説明する機会もあるかと思いますが・・、いまは、私の【感情感知】のお話を致しますね。・・・【感情感知】は視界に入る人の感情がどのような状態か色で視認する能力ですわ。わたくしのパッシブスキルで意識してないと常時展開してしまうので、便利なようで案外うっとうしく感じるときもあるのですが・・・、その・・えっと・・・いま、豊島さまの感情も・・丸見えでして・・うれしく思ってはおりますが・・恥ずかしくもありますし・・・その、聞いてみてもよろしいですか・・?」

顔を真っ赤にした佐恵子は、上目遣いで哲司に問う。

「え??聞くとは?ええですけど、なにをですか?」

「さっきの私の姿を見ました?」

「・・といいますと」

佐恵子の目に映る哲司の感情色に変化はない。

見ていないということだ。

「ま、まあ!で、では・・聞きました?私のあのときの声を!・・私が退室している間に私が何をしているかわかりましたか?」

「え?ええええ?えっと!それは、その、あのう、わかりません!!」

哲司から発せられていた感情色が激しく変化する。発言に嘘があると明確な変化が見て取れる。

「ううううう!!と、豊島さま!見えるとお伝えしましたでしょ?!・・・豊島さま恥のかきついでに知っておいてください!・・私オーラが枯渇すると、そのう・・我慢できなくなってしまいますの!今日のことは豊島さま・・!お墓まで誰にも内緒で持って行ってくださいませ!約束してください!」

「は、はい!や、約束します!俺、最初にも言いましたけど信用できる男ですから!」

真っ赤な顔を両手で押さえながら、はぁはぁと息を切らせ、言い切った佐恵子は豊島の発言を聞き、指の間から覗き豊島のオーラを見る。

「ま、守っていただけそうですわね・・・」

「当たり前ですわ。言われんでも誰にも言うつもりありませんでしたし、支社長にお願いされたらなおさらですわ。安心してください」

「・・・本当に守っていただけそうですわね」

「二言はあらへんですわ。安心してください」

「・・・・見えてます・・。・・いいのでしょうか・・。もう一つ聞いても?」

内緒にしてくれるということと、もう一つ明確な哲司の感情が見えている佐恵子は、幾分落ち着きを取り戻して、ひと呼吸おいて問いかけた。

「なんでも聞いてください。支社長には隠し事はできないみたいやし・・。ほな、けど、俺にとっては、それってたぶんあんまり関係あらへんかもしれません」

「本当に・・・わたくしでよろしくて・・・?」

「もちろんです。俺のほうこそですわ。支社長が駄菓子屋の娘だろうが、財閥の令嬢であろうが、宮川さんは宮川さんや・・・。初対面の時からインスピレーションでずっと見てしもうてましたわ。‥さすがにそうじゃなかったら、白刃取りなんかできんかったと思います。でも、支社長、見えるなら俺の気持ちって最初から気づいてたんとちゃいます?」

「ええ、でもすぐ枯渇してしまったので・・すぐ見えなくなって確信がもてなかったのです。あああ・・・。ブレない・・そんな恥ずかしい発言をしてるのに色がブレてませんわ・・。こちらこそよろしくお願いいたしますわ・・。・・・今後はお名前でお呼びしてもよろしいですか・・?」

前のめりになり哲司を伺う佐恵子を哲司はテーブル越しに抱き寄せ、肩を抱くと唇を重ねた。

【第8章 三つ巴 25話 不器用で実直な2人 終わり】第26話へ続く



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第8章 三つ巴 26話 裏切りの発覚

第8章 三つ巴 26話 裏切りの発覚


「やはりクロでしたか」

「ええ・・、粉川さん、杉さんの奥様の消息がつかめません・・。周囲には実家に帰ったと言っているようですが・・・」

「その実家に帰省の形跡はないのですね」

「そのとおりです・・」

支社に戻ってきた神田川真理は5階の調査部に直行し、調査部部長代理と話していた。調査部と言っても本日デスクなどを置いたばかりの部署で、もともとは菊一探偵事務所に所属するメンバーたちで構成された部署だ。

過去の調査資料や、私物の荷物も多かったのだが、黒を基調とした新品のデスクやキャビネットなどが整然と配置されており、私物等はそれらの中に納まっているのであろう。

部署の見た目は新設同然で、文具や備品の真新しいにおいがしていた。

力仕事を終えた美佳帆以外のメンバーは1階にあるカフェで福利厚生の恩恵を受けているところだ。

美佳帆はというと、部署のカウンターの外側に設置されている応接セットで、宮川コーポレーション関西支社にいる能力者3人のうちの二人、つまり神田川真理と稲垣加奈子に向かい合って座っていた。

美佳帆は、真理が加奈子を伴って帰社する前に、宮コーの警備部門の人員から、大塚のマンションに配置されている杉誠一、粉川卓也の調査報告を受けていた。

真理からの指摘、そして美佳帆も予想していた通りの調査結果だったとはいえ、さすがにショックが大きい。

「どうするの?真理」

「速やかに解決するべきね。佐恵子に相談してからになりますが、やはり水島さんには消えてもらいましょう・・。大東さんや岩堀さんの意向もありますし、うちの調査部となったからといって、合併前に引き受けた仕事内容を反故にしないことは、先日の契約書にも記載があります」

「ふむふむ・・・。水島って人がどういう人か知らないけど、支社長ならいろんな選択肢を持っているのです。水島さんにとってはいいことは何にもなさそうですけど・・」

加奈子が真理に問いかけ話にでた水島に話が及ぶと、それに美佳帆が答える。

「ご心配なく稲垣さん。水島という人物は死んでもしょうがない悪人です。うちの調査でも出てますが、それは間違いありません。こちらに彼の悪行を記載した資料があります」

「あー・・・っと、加奈子と呼んでくれていいですよ。私も、えっと・・美佳帆さんと呼ばせてもらいますので。さっきから真理のことは真理と呼んでますし、私だけ苗字で呼ばれると、私だけ溝があるみたいに見えるじゃないですか」

「実際にそうなんじゃない?・・・・冗談よ」

美佳帆が資料を加奈子に渡し説明をしようとしていると、加奈子がやや不満そうな抗議をしだしたので、真理はわざと真顔で、加奈子に少しだけ意地悪な注意をする。

「ふふ、お二人はいいコンビなんですね。大丈夫ですよ。全然気にしてませんから。じゃあ遠慮なく加奈子さんと呼ばせてもらうわね」

美佳帆は真理と加奈子のやり取りを微笑ましくみてから、加奈子に向き直り笑顔で言う。

「・・・真理は手厳しいのです・・。どうぞ、どうぞ社内だとガッキーとか加奈子って呼ばれることが多いのでそのほうが落ち着きます。こちらこそよろしくお願いしますね。美佳帆さん」

加奈子は真理に非難めいた視線と抗議を送ったあと、美佳帆に笑顔で挨拶をする。

「それで、その大塚さんって刑事さん達にはもう今後情報流さないの?」

「それだと人質になってる粉川君や杉君たちの奥様の命の価値が無くなってしまうわ」

「かといって、本当の情報を流せない・・・。ですので、できるだけ早くに手を打つべきです。この間の捜査官にも仕事をしてもらいましょう」

加奈子の発言に対して、美佳帆が返し、真理が提案する。

美佳帆、真理、加奈子の3人は徐々に打ち解けだし、状況の把握と今後の方針を検討しだす。もともと頭もよく理解度の高い3人の会話はスムーズに進む。

「えっと、霧崎さんですね?」

美佳帆は先日、お嬢こと伊芸千尋の身元引受の際に霧崎美樹には会っている。

「ああ・・、あの爆乳捜査官」

霧崎美樹は美人ではあったが、いかにも官僚的なエリート然とした態度の女性で、美佳帆は彼女に対して生真面目なイメージをもっていた。それだけに、加奈子の爆乳捜査官という発言に思わず吹き出してしまう。

実際に美佳帆が会って話した時も、スーツのジャケットにはきつそうに胸が納まっていたことを思い出し、口を押えて笑いを堪える。

「そうです。門谷さんにあの夜以降調べてもらっていたのですが、本来、霧崎美樹は警察組織を監視監督する立場のようです。今はここの府警察の腐敗や癒着問題で本庁から派遣されてきているようで、政府直轄組織が動いているということは、府警察と張慈円、橋元一味はすでに限りなく黒と疑われ狙いをつけられているとみて間違いないでしょう」

加奈子のそういった発言はいつものことなのであろう。真理は気にせず霧崎美樹についての説明を始める。

「・・・じゃあ、今回の橋元がらみごとは完全に爆乳捜査官の仕事ってことね」

「そう、おそらく些細な情報提供でも動くはずよ。でも水島の件は、霧崎さんに連絡を入れる前に処理しないといけないわ」


加奈子の発言に真理が答え、加奈子が表情を曇らせる。

「大丈夫かな・・」

水島を処理するということは、支社長に相談し、なおかつ支社長の能力を使用するということであり、それらを懸念した加奈子の発言と表情であった。

「状況は一刻を争うわ。門谷さんを通じて霧崎美樹のほうには加奈子のほうから当たってもらえる?門谷さんが万事うまくやってくれるはずよ。佐恵子には無理をさせてしまうかもしれないけど、私から連絡しておくから」

「ありがと―真理・・。支社長疲れてると機嫌悪いし怖いのです。今日も部屋にも入れてくれなかったし・・・、仕方ないから入口で待機してるしかなくて、だから支社長が飼ってる鯉に、ついいっぱい餌あげちゃいました」

「まあ、ね。佐恵子の方には私が話するから、その代わり門谷さんと上手く連携して霧崎美樹にコンタクトして」

佐恵子の症状を詳しく知っているのは真理だけなので、加奈子は佐恵子が唯々機嫌が悪いだけだと思っている。苦笑しながらそう言う真理に向かって加奈子は「まかせておいて、門谷さんと仕事すると楽なのよね」と返事を返している。

「えっと、真理さん。和尚っていま宮川支社長のところにいるんですよね?なにか粗相して宮川さんを怒らせてないか心配になってきちゃったんですけど・・・。彼、真面目でいい男ではあるんだけど、場合いよるとすごく怒らせる可能性も否定できないというか・・」

「豊島さんがですか?・・・私の勘では大丈夫だと思いますよ。うふ・・・、むしろ佐恵子は豊島さんのことすごく気に入るんじゃないかと思ってるぐらいです」

「真理さんがそう言うなら、大丈夫な気がしてきましたけど・・。なんせうちの所長はなにかと宮川さんに突っかかりそうだから、副所長の和尚まで宮川さんに睨まれるとさすがに・・」

美佳帆の所員や周囲との潤滑剤としての気苦労を察して、真理はくすりと笑うと、美佳帆に労いの言葉を掛ける。

「美佳帆さんは気苦労が絶えませんね」

「あ、それ初めてここの2階で真理さん達と会談した日に、私が真理さんに対して思ったことと同じですよ」

「・・お互いに気苦労が絶えませんね」

真理と美佳帆はお互いに顔を見合わせ、苦笑いをし合う。そのすぐ隣で、「わたしにもいろいろと気苦労ぐらいあります」と呟く加奈子の口は少し尖っていた。


繁華街にあるドットクラブという怪しげなラブホテルの一室で、ここ数日で起こった出来事の報告が行われていた。

「健太の奴が捕まったんはしょうがないですなぁ。あいつはそのうちドジ踏みよると思っとったからな。それが思いのほか早かっただけとして・・・」

張慈円の報告に橋元浩二が豪快に笑いながら言い放つ。

「しかし、これはかなりの失態やなあ。宮コーの人質の社員二人取り戻されて、オルガノも港倉庫もアマンダもたった2日で失うとは恐れ入りますなぁ。あのクソ探偵事務所の仕業か?こんな複数個所を同時に波状攻撃できるほど人員が多いのですか?張さんよ?どないや?あのクソ探偵事務所には覗き屋がいてるんやろ?この町でこの私にほかに逆らうやつらは誰ですかいな?せめてその辺はしらべてあるんでしょうな?」

橋元は3人掛けのソファに一人だけどっかりと座り、周囲を囲む面々に向かって鋭い視線を飛ばす。

ソファに座る橋元の足元には全裸の女性が首輪を施され、四つん這いになり橋元の股間に顔を埋めている。

女性に嵌められている首輪はリードが付けられており、リードは橋元の左手に握られ、首輪には南京錠が嵌められていた。

全裸の女は張慈円、劉幸喜、アレンに臀部を突き上げて見せつけるような恰好であったが、それを恥じらう様子もなく橋元の股間に顔を埋め、チュパチュパと淫卑な音をさせている。

全裸の女性に自らの男根を口で奉仕させながらも、豪快に笑ってはいたが橋元の目付きは鋭い。

その目付きに対しても、さすがに張慈円は気圧されることもなく、報告を続ける。

「宮川のやつらです。昨日16時頃にオルガノに能力者3人で強襲を掛けてきました。調べでは宮川佐恵子、神田川真理、稲垣加奈子の3名です。こいつらは所謂、宮川の一人娘の派閥で、宮コー本社では少数派ですが、いずれも宮コー10指に入る能力者です。オルガノには私が念のために配置しておいた劉しか能力者はおりませんでした。・・・今更言っても仕方ありませんが、宮コーの社員を攫ったのに少し手薄すぎましたな?」

張慈円の報告には些か橋元の油断と手抜かりを指摘するものであったが、橋元はその指摘ではなく、別のことを思い出して、股間に顔を埋めている女の髪の毛を掴み、乱暴に股間に押し付けた。

「あの小娘ですか!せっかく私自ら足を運んでやったちゅうのに会いもせず門前払いかましおった。この町で私を無視してあんなドでかい仕事を独り占めしようちゅう魂胆が卑しいですね。あのすかした小娘も私の目の前に連れてきて己が雌であることを、この刑事みたいにわからせてやらな気がすまんですなぁ!あの時、どないかして10分でも膝付合わせて会うておけたら、ここでワシの一物しゃぶっとるんはあの宮川のガキだったかもしれんちゅうのに!」

「むぐうう!!」

橋元に髪の毛を鷲掴みにされ、男根を喉奥に突き刺された神谷沙織は苦しそうに嗚咽を上げながらも、その表情は恍惚としており雌の顔そのものである。

橋元の能力は【読心】と【媚薬】。戦闘能力は一般男性に毛が生えた程度だが、財力と巧みに【読心】を用いた類まれなカリスマでこの町を裏から牛耳っている張本人である。

橋元の前に引きずってこられた神谷沙織は、最初は気を強く持ち気張っていたのだが、能力者ではない神谷は【媚薬】にはほとんど抵抗できなかった。

【媚薬】の発動条件は、対象女性性感帯の凝視のみ、脱衣状態が望ましいが、着衣状態でも効果は発揮するという女性殺しに特化した凶悪技能である。

神谷沙織は着衣状態で【媚薬】に晒され10分もしないうちに、自ら服を脱ぎ、橋元を誘惑挑発する有様であった。

20分後には、全裸で自ら股を開き自慰まで披露して橋元にスマホで撮影されながら逝き姿を晒すほど、女の部分を完全に狂わされていた。

神谷沙織が普段真面目ぶっているだけで、実はふしだらな淫乱女だったということではない。

【媚薬】は女性であれば耐えられるようなものではない。一度掛けられると発情期の雌猫のごとく身体が火照り形振り所構わず男根を求めてしまうのだ。

SEXや自慰で一時的に火照りを抑えたとしても、【媚薬】の能力が解除されるわけではない。個人差はあるが一定時間経過すると、再び発情期の雌状態に戻されてしまう。

解除方法はかなり限定されており、方法は二つある。一つは橋元とのSEXで橋元の男根で膣内に射精を施されるまで、この発情地獄は続くのだ。

しかも、【媚薬】は重複可能な能力である。橋元に貫かれ射精をさせる為、無防備に身体を開いている間に、対象の雌は更に十重二十重に【媚薬】を掛けられてしまう。

橋元がその対象女性を開放する気がない場合は【媚薬】からの脱出はほぼ不可能となってしまうのだ。

故に橋元は対女性に対しては無敵に近い能力を備えており、しかも、相対する女性は敵に身体を開き続けるしか解除方法はないという屈辱的な敗北をし続けることになる。

もう一つの方法は橋元にオーラを使えない状態に追い込むしかない。つまりは、気絶や殺害というところだ。

神谷沙織はその【媚薬】の効果を受け、男根が欲しくて仕方ない雌にすっかりと変えられてしまっていた。

張慈円たちのほうに向けられている神谷沙織の秘部は、普段の彼女ではありえない量の愛液で濡れ、愛液は両方の鍛えられている白い内腿をししどに濡らし、床の絨毯の上に滴り落ちていた。先ほどから神谷自身の右手で陰核や蜜壺を激しく弄り、自慰を続けながら、口と左手を使い橋元の男根に尽くしている。

本来なら神谷沙織のような真面目な女性は、好色蟷螂である張慈円の大好物なのだが、目尻を吊り上げた厳しい表情で淡々と報告を続ける。

「あとは政府の公安も動き出している。霧崎という女捜査官が手下をつれて町中を嗅ぎまわっております。更に、先日港倉庫には、霧崎ら公安の連中、宮川の3名、菊一事務所の連中も3名が偶然かもしれませんが、ほぼ同時に強襲してきました。さすがに俺たちだけでは対応しきれずです。・・アマンダを強制捜査に乗り出したのも霧崎ら公安の連中です」

「張さん、さすがにそれはまずいなあ。3つの組織に私らが狙われては如何に張さんの腕が立ってもどないもならんでしょう?・・なんぞ手は持ってるんでしょうなあ?」

橋元は神谷沙織の喉を甚振るように突き上げながら張慈円を試すように問う。

「・・・菊一には警察の覗き屋から情報が入っております。今晩、覗き屋二人ともが水島を見張っているマンションから離れて、代わりに菊沢美佳帆一人が見張りに付くとの情報が入っております。・・・こちらも手傷を負ってはいますが、まさか襲ったすぐに襲い返されるとは思ってないはず・・・菊沢美佳帆を拉致し、脅して菊一事務所を黙らせることはできるでしょう。ついでにこの際、囚われている水島も消しておきます」

「水島はんは張さんの言う通りそうしたほうがええな。それよりあの菊沢美香帆か!この私をだまくらかして上手く逃げおおせた豊満女狐め!うはははは、あの女、私の【媚薬】を喰らったままですからなぁ!想像するだけでたまらんですなぁ。訳も分からず身体がうずいて、旦那にも言えずおそらく一人でオナニーしまくっとるんやろなあ。張さん、わかってると思うが生け捕りにして連れてきてや?私は昔から、羽田美智子が好きなんは、知ってますやろ?あの羽田美智子似で能力者であの身体やで、たっぷりと仕込み甲斐がありますわぁガハハハッ!!」

「・・・わかりました」

「それまではこの刑事で我慢するさかい。この刑事は飽きたら【媚薬】重複させて開放するんもおもろいかもしれへんなぁ。真面目ぶっとったから、いきなりヤリマンになって周りに驚かれるやろな。ガハハハッ!」

橋元の油断から警備が手薄となりこのような事態になったとはいえ、張慈円自身も失態がなかったとは言えない。その為、雇い主の要望に素直に短く答え、さらに付け加える。

「あと勝手とは思いましたが、髙嶺に傭兵の応援をもらえるよう要請をだしました。いまから菊一事務所を黙らせても、宮コー本社が能力者を今以上に送ってくるかもしれませんので・・・。それに、今回乗り込んできた宮川の娘もやはり魔眼持ちでした。いかに橋元さんが女に対して無敵と言えども、ヤツの視界に入ること自体危険な行為だ。・・俺もヤツの魔眼の威力には抵抗しきれなかった・・」

「ほう!・・張さんでもか・・。なかなか厄介なやつのようやな。しゃあない・・事後報告でもええで?髙嶺の件は了解や。ただ、追加の料金は払われへん!今回の失態やしええな?」

「そこは構わない。菊一や宮川を相手にするには人数が足りんすぎる。命だけは金でかえないからな」

張慈円は、吊り上がった目の表情を崩さず、短く了解の意を伝える。

「そやけど、厄介なやつほど【媚薬】付けにしたときの楽しみが増えるんやけどな。可能なら宮川のガキも生け捕りにしたってや」

「そのつもりでしたが、いま言った通りヤツの視界に入るだけで危険です。体術も侮れんし、能力も強力です。護衛の二人も・・・残念ながらサシでは俺以外対処は難しいしょう。ゆえに髙嶺という訳です」

「わかったわかった。人員の増強費用は張さん持ちや。とやかく言わへん。とりあえず、今日は菊沢美佳帆やな。疼いてるはずやしまともに動かれへんはずや。きっちり捕らえてきたってや」

「・・・やられっぱなしではおれませんからな。一泡ふかしてやるとしましょう。・・行くぞ劉!」

張慈円は踵を返すと劉を伴い部屋の出口に向かう。張慈円の後ろに劉が付き従い歩き出すと、劉よりひどくやられ立っているのがやっとのアレンに向かって、橋元が声をかける。

「アレンと言ったか?あんたも張さん手伝うてやりなさい。張さんええな?」

「・・・・そいつは酷くやられていた。もうボロボロだろう。・・死んでも構わんなら連れて行くが・・」

張慈円が振り向きチラリとアレンを見てから橋元に聞き返すが、稲垣加奈子に瀕死まで追い詰められた当のアレンが即答した。

「ダイジョウブ・・・。ヤレル」

「よう言うた。それでこそマイクの後釜が務まるちゅうもんや。・・・張さん、本人そう言うとる。連れて行ったってや。ワシまだしばらくこの刑事、可愛がっとるから。あのくそ生意気な菊沢の嫁を連れて帰ってくるの待ってるさかい。頼むで」

「・・承知」

張慈円は振り返らずに短く答えると、劉とアレンを伴い橋元の部屋を後にした。

【第8章 三つ巴 26話 裏切りの発覚終わり】27話へ続く



第8章 三つ巴 27話 作戦開始

第8章27話 作戦開始

新設で配置された応接室に元菊一事務所の面々と宮コー能力者達の3名・・とはいっても菊一事務所のメンバーは全員ではない。

あらかた荷物の運び込みは終わり、何とか業務はできそうには配置されているが、まだ大きな備品などはきちんと配置されていない。

会議ブースぐらいは確保できているのだが、残りの大きな家電製品などの配置は、は改めて明日に作業を再開することになっている。

この会議に参加しているのは部長の菊沢宏、部長代理の菊沢美佳帆、副部長の豊島哲司、三出光春、寺野麗華、斎藤アリサの6名で、残りの3名のうち二人の斎藤雪と伊芸千尋は15階のスイートルームの同じ一室で待機中、北王子公麿も【自動絵画】を使い過ぎて疲労困憊になり別室のスイートルームでダウン中である。

宮コーの参加メンバーは、宮川佐恵子、神田川真理、稲垣加奈子である。

その宮川佐恵子は目を閉じ、眉間に皺を寄せ、脚を組みなおして溜息をついた。

一通り神田川真理が今夜の作戦の説明がなされたのであるが、一人の人物によって意義が申し立てられていた。

「そんなもんアカン!そんな作戦認められへんと言うとるんや!それやと美佳帆さんを囮に使うちゅうことやないかい!」

大塚マンションに監禁してある水島の処置及び、杉、粉川の敵への内通を逆に利用しての作戦説明の途中で、グラサンこと菊一探偵事務所元所長、現在は宮川コーポレーション関西支社調査部部長の菊沢宏が声を荒げた。

「奥様を囮に使われているという事のお気持ちはお察しいたします。ですがどうか落ち着いてください。今回の件は美佳帆さんもご納得いただいたうえですし、これが相対的にみて一番最適な配置です・・」

宏の剣幕に押され、さすがの真理も一瞬たじろいだ表情を見せたものの、毅然と返答する。

「ちょっと宏。落ち着いてよ。私のことを心配してくれてるのは嬉しいけど、これが最適なのよ」

美佳帆も慌てて隣に座る宏の腕を掴み、真理と宏の間に入って宥める。

「いいや・・アカン・・これはホンマ、アカンやろ・・。美佳帆さんを大塚マンションに一人で待機させて囮にするんやで?今の話やと一時的とはいえ、美佳帆さん一人になる時間が何十分かできてしまうやろ?画伯の【自動絵画】やとドットクラブには張慈円はおそらくいてへんことがわかっとる・・。ということは大塚マンションに来る可能性が高いちゅうことや」

美佳帆に掴まれた腕をやさしく振り解き、真理の後ろに座っている佐恵子に向きなおった宏が剣幕治まらぬ様子で言う。

画伯こと北王子公麿の能力を酷使し得た情報では、まだまだ情報不十分であったが、今回の情報漏洩を逆手にとった作戦に、敵は食いついたことが確認されている。

「・・・・ふぅ・・。作戦の草案は真理が考えましたが、承認したのは私です。・・・しかし・・・、面と向かってこんなに反論を受けたのは初めてですわ・・。些か面食らいますわね・・。それに、部長代理である美佳帆さまの護衛には、マンションの外で待機している私達3人で付くとお伝えしているじゃありませんか。張慈円が現れても、加奈子がいますし、わたくしもいますわ・・。わたくしと加奈子で張慈円を迎え撃ちましょう・・ご不満ですか?」

一人だけ肘置き付の席でソファに深く腰掛け脚を組んでいる佐恵子が、少しだけ宏に気を使うような素振りで話しかけていることに、佐恵子の左側に並んで座っている真理と加奈子は内心驚く。

「それや・・・その心持やねん・・敵を見下してるそこが問題やねん。それと、ご不満ですかって?・・満足か不満かで言うと不満や。自分らの能力や才能に奢った中途半端な強さのあんたらに、今の美佳帆さんを任せるんは不安やって言うてるんや。美佳帆さんが一人になる時間があるやないか」

佐恵子の右側、真理や加奈子の正面にどっかりと脚を割って座り、腕を組んだままの宏が憮然と、しかし困ったような表情で答える。

「中途半端・・?」

さすがに中途半端と言われ、佐恵子の細く形の良い眉がピクンと跳ね上がり、細い目を鋭くさせ宏に聞き返す。

「菊沢部長。・・いい加減にしておきなさいよ?・・・うちの会社で支社長にそんな口聞く奴はただの一人もいないわよ?」

耐えかねた加奈子が、正面に座る宏に静かな声ではあるが、怒気を孕んだ口調で咎める。

「ああそうかいな、悪気があったわけやないんやが、すまんな。しかし美佳帆さんを囮にするんなら護衛としては俺が最適や。これは譲られへん。宮川さんらのほうがドットクラブへ強襲かけたら万事うまく行くんとちゃうか?」

加奈子のほうをチラリとみてから軽く断りをいれた宏は佐恵子に向かって提案する。

「・・・大塚マンションかドットクラブ。北王子さまの【自動絵画】の情報では、おそらく大塚マンションのほうに張慈円は現れますわ。そして・・橋元はおそらくドットクラブのほうで・・神谷さまのことを・・。絵では判別できませんが、張慈円は手傷を負ってはいました。ですが、真理や北王子さんのように回復能力者もいるかもしれません。最悪の場合を想定して、全快していると考えるべきです。・・張慈円と戦って感じたのですが、私のオーラ量判別では菊沢さま、豊島さま、そして加奈子か私・・、その4人のうち2人以上で対峙できれば、張慈円といえども完封できるはずです」

「なら俺と和尚、ほんで姫、アスカで大塚マンション。ドットクラブは支社長さん、真理さん、稲垣さん、モゲか・?」

佐恵子の説明に頷いた宏は、腕を組んだままソファに持たれメンバーの配置を提案する。

「・・・岩堀さんや大東さんから受けた依頼を問題なく完了させるには、水島という人物に私が【暗示】をかけたうえで、ある程度【操作】する必要がありますわ。私と加奈子と真理、寺野さま、アリサさまで大塚マンションに行きます。ドットクラブには、男性陣で向かっていただく・・真理がそう説明でしたでしょ?聞いてませんでしたの?」

佐恵子にしては根気よく対話をしているが、だんだんと機嫌が悪くなりつつあり、真理と加奈子は冷や冷やとしながら、そう言う佐恵子の顔を横目で伺っている。

「支社長さんの【操作】や【暗示】使こうてそこまでせんでも水島は俺が始末してしもたらええやないか」

「わが社の社員である限り、能動的な殺人は容認できません。・・・・そんなことを今更おっしゃるのなら、こんな事態になる前にそうしておくべきでしたわね」

宏と佐恵子の声がお互いに声の音量を上げ始めたところで美佳帆が宏の腕を引っ張って言う。

「宏、大丈夫だってば!それに、ドットクラブにいるかもしれない神谷さんを助け出してあげて・・・画伯が描いたあの絵・・同性として見てられないわ・・・。一刻も早く助け出してあげてほしいの」

「それはもちろんそうやけど・・そうは言うても美佳帆さん・・!美佳帆さん・・俺知ってんで?・・美佳帆さん、実はいまちょっと本調子やないやろ?」

普段はポーカーフェイスの美佳帆も一瞬しまったと自分でも思うほど、表情に出てしまった。ボーっとしているようでも、宏には何か伝わってしまっていたらしい。

美佳帆は仕方なく白状する。

「宏・・・私の調子が悪いの気づいてたんだ・・・?でも、大丈夫よ。宮川さん達は3人とも凄腕だって宏も言ってたじゃない。それに、うちの姫やアリサも加奈子さんに負けないぐらい強いはずよ?」

「そのとーり!麗華ちゃんもいるし心強い!」

「所長!あ、いまは部長か・・・美佳帆さんの護衛なら任せてよ!・・・それともなに?・・私たちもいるっていうのに信頼できないっての?」

「え!?そういうことなの?」

名前を出された天然ことアリサが右手を上げ元気に答え、同じく姫こと寺野麗華が胸に手を当て、宏に答えていたが話が変な方向に行きそうになってきたところで、佐恵子が口を開く。

「・・・・たしかに、オーラ量だけで見るとお二方とも加奈子に迫るオーラ量がございますわね・・。戦闘能力も加奈子並みだとすると、わたくしにとっては嬉しい誤算ですが・・」

この佐恵子の発言に、話題に上がった3人とも微妙な表情をするが、あえて誰も発言しない。

加奈子は自分に迫る強さだと思われてるのは心外なようであるし、麗華にとっては、稲垣加奈子は先日助けてやった対象でもある。天然アリサは解っているのかいないのかわからない表情で、それぞれの顔を見比べている。

格闘に自信のある加奈子と麗華の間で、無言の火花が飛び始めたとき、妙に冷静な声で宏が口を開く。

「それはそうなんやけどなぁ・・いや、アリサや姫のことやないで・・?・・あんな、美佳帆さん・・確かに支社長さんら3人は一流の能力者や・・・。それは間違いあらへん。しかも内二人はレア能力者やな。そうやけど、悲しいかな戦いにおいては・・、俺の見立てやとまだまだやねん・・なんて説明したらええんやろな・・いや・・、うちの所員にも言わなあかんし、俺もなんやけど・・ハァ・・こんな時に先生がいてくれたらうまい事説明してくれるんやけどなぁ・・・」

「グラサン・・愚弄するのもそのぐらいまでにしておきなさいよ」

困ったような仕草で美佳帆に説明をしようとしていた宏に、加奈子が最後通告だと言わんばかりの気迫で静かに宏に警告する。

加奈子の様子を手で制した佐恵子は、軽く「ふぅ」と嘆息してから、宏に向って口を開く。

「菊沢さま・・・・あまりこういう事、普段は言わないのですが・・、相性や能力の種類によって強さとは完全にイコールとは言えません。しかし、とは言っても概ね比例しがちなのも事実です・・・私自身、自分ではまだまだ精進するべきとは思ってますが、自分のオーラ量も完全に把握してますし、私にはオーラ量とその人の感情や精神状態までもがほぼ見えてしまいますわ」

「ほう・・・、支社長さんの【感情感知】というやつな?オーラ量も見えるんは便利やな。・・・・それ以外のもんまで見えるんは勘弁やけど・・。で?・・いまその話を切り出したんはなんでや?」

今日は出会った日よりは幾分おとなし目やな、と宏は心中で呟き、佐恵子に目を向けると、佐恵子が少しだけ言いにくそうに切り出した。

「たいへん申し上げにくいのですが、美佳帆さまのオーラ量では戦闘には耐えられないでしょう・・。例えば、いまの菊沢さまのオーラが100とすれば、いま美佳帆さまは8ほどしかありませんわ。初めて2階の応接室でお二人にお会いした日より随分と少ない上に不安定です・・。菊沢さまも奥様の不調に感づかれていたご様子・・。しかし、どうなのでしょうね・・私は本調子の美佳帆さまの状態を一度も見たことがありませんので何ともいえませんが・・・本来奥様はもっとオーラ量が多いのでは・・?」

「は、はち???宏が100で私が8って・・ははは・・確かにいま絶不調だけど・・、とはいえ・・はちって・・・」

美佳帆は呆れたような表情で佐恵子に向かって言う。

「ええ、美佳帆さま、皆の前でごめんなさいね。ほかの方と比べても平均値より50ほど低いですわ・・。それほどの状態です。わたくし達が護衛致しますが、ご自身でも感じているご不調通り、無理はなさらないように・・。・・・まあでも・・重ねて言いますがオーラ量イコール強さではございません。言わずもがな、その人自身の身体能力や経験、あるいは知識、それに気概で大いにかわります」

佐恵子はそう答え、美佳帆と宏を伺いながら更に続ける。

「私の目が節穴でなければ美佳帆さまはおそらく橋元一味の誰かに呪詛を掛けられてますわ・・・。話を聞かせて頂いた限りでは、たぶん橋元が呪詛を美佳帆さまに掛けたのでしょう・・・。それらの理由から、まだ戦闘になっても地の利がある、大塚マンションに美佳帆さまを配置したいのです。それとおそらく橋元が執心している美佳帆さまを囮にさせていただいたほうが、作戦の理に適うと考えています。・・・呪詛の元凶になっているであろう橋元のいる可能性の高いドットクラブに美佳帆さまを行かせたくないですし、詳しく言えませんが美佳帆さまの症状からすると・・・ドットクラブへの強襲は万全を期して男性陣でやってもらいたいのです」

言いにくそうに切り出した佐恵子ではあったが、途中で口調は覚悟を決めたようにはっきりとなり正確に宏に伝えようとしているのが宏にも伝わってきた。

なんで?ドットクラブには男性メンバーだけ?という男性陣の表情と女性陣の表情を見て、今度は真理が続ける。

「美佳帆さんの状態は女性ならではのものではないかと思っております。・・・それと橋元が呪詛使いなら呪詛は術者によって重ね掛けできる可能性が高いです・・・。佐恵子自身が使用できる数ある呪詛技能のすべてを時間さえあれば重ね掛けで強化できます・・おそらく、呪詛使いであろう橋元も同じく重ね掛けができるのではないかと推測してます。そういう意味では呪詛も付与も使える佐恵子の近くにいるのは美佳帆さんの呪詛を和らげたり、緩和できる可能性があります。それに、今回北王子さんと雪さんが作戦に参加できないので、治療ができるのは私のみです。そういう観点からも美佳帆さんは大塚マンションにいていただきたいですね。・・・ちなみに私と佐恵子は必ずセットです。【未来予知】と【治療】を用いて佐恵子の安全を最優先にするようにと、本社から常に最優先事項として命令が出ておりますので・・・」

「神田川さんそれはようわかったで。御旗折られるわけにいかんもんな。了解や。・・それより、その付与ってやつ・・緩和できるんやったら美佳帆さんに今すぐやったってくれや」

「えっと??今の話本当なんです?美佳帆さん、どっか調子悪かったんですか?」

「えー!?じゃあさじゃあさ!なおさら囮になる役なんかしないほうがいいんじゃないの?!」

宏と佐恵子のやり取りを聞いていた姫とアリサも美佳帆と佐恵子を交互に見ながら言った。

みんなの注目を浴びた美佳帆は頭を、カリカリとかくと、苦笑いを浮かべ切り出した。

「あーーー・・ごめんねみんな。私も確信持てなかったら黙ってたんだけど・・ちょっと調子は良くないのよ・・。たぶん橋元に会ってからだとは思うんだけど、支社長にさっき改めて言われてそうなのかなって・・ね。ははははは、まあ、大した症状じゃないんだけど、オーラ使うのはちょっといま上手くできたり、できなかったりかな・・・」

「美佳帆さん、そんなに不調やったんか・・すまん。そこまでとは・・・気づいてやれんかって・・。なあ・・支社長さん・・美佳帆さんはどんな状態なんや・・あんたの能力で識別できるんやろ?なんかわかってることあったら、教えてくれや。頼むわ。それで、緩和するような付与かなんか美佳帆さんに施してやってくれや」

グラサン越しでもわかる驚いた表情で、そこまでは気づけなかったという顔をした宏が美佳帆に謝りながら、佐恵子に頭を下げる。

「ええ、それは・・」

「あーー・!あとでちゃんと説明するから。ね?!」

気まずそうに口を開きかけた佐恵子を美佳帆が目配せしながら制止し、続けて宏に向き続ける。

「宏・・!いまはさっき真理さんが言った作戦通りでお願い。私のことは大丈夫だから・・あとで、支社長に付与してもらうから」

そう言われた宏は美佳帆をグラサン越しにじっと見つめると

「・・わかったで、了解や。神谷さんのほうは任せときや。この面子で乗り込むんや。敵さん気の毒なことになるで」

と宏は不敵な笑顔で答え、いつもの調子に戻った宏の調子に安堵し、美佳帆も笑顔で頷いたのであった。

「問題はなくなりましたわね?では・・・」

美佳帆と宏のやり取りを見ていた佐恵子は一言そう言うとオーラを練り、両目を淡く光らせ、右手を美佳帆にかざした。

すると、僅かに発光する白く淡い光が美佳帆を包んだ。

「・・これが、付与・・・す、すごい・・・」

美佳帆が光で包まれていたのはほんの一瞬であった。

思わず美佳帆は素直に体感を口に出してしまうほどだ。

光が身体を包んだ瞬間から、心の奥底や下腹部付近でジクジクと陰鬱な欲情に駆られそうになる衝動が消え去っていく。

「・・・効果を体感できたご様子ですわね。【沈静】と【冷静】を付与致しました」

「え、ええ、これなら・・【百聞】も100m超えできそうだわ!」

「お待ちになって・・、疲労している精神までは回復してないですわ。徐々にその辺は回復していくと思いますので、急に無理はなさらないでください。それに、いま掛けた私の付与術の効果時間は、対象の個人差もありますが概ね1日程度です。覚えておいてくださいね」

「美佳帆さん大丈夫なんか?楽になったんか?」

「ええ!ずいぶんと楽になったわ。これなら鉄扇も思い切り振るえそうよ」

「おおきにな、支社長さん」

「礼には及びません。あくまで一時的なものですわ。もとになる呪詛の強さがどの程度なのかわかりませんが、付与で消せたわけではありません。・・・先ほどの状態があまりにもだったので、すごく回復したように感じている・・というだけだと思います。オーラ量はほとんど増えてませんからね・・・。ただ、オーラの乱れはなくなりました。私の付与が効いている間は徐々にオーラ量も回復に向かうでしょう。効果が切れたら遠慮なくまた私のところにいらしてください。掛けなおしますので」

「ええ、ありがとうございます・・。でも、ということは、支社長が掛けてくださった【沈着】【冷静】が切れたら・・・?」

「前の呪詛の解除条件を満たしていない限り、また再発いたしますわ・・。私が使っている付与はほとんどオーラを消費しません。その代わり効果は一時的ですし時間は限定されています。しかし呪詛に練り込んだオーラ量、術者の嗜好、それに解除の条件付け次第では解除する難易度はずいぶんと変わってきます。時間で切れる呪詛ならよいのですが・・・。その解除条件は術者本人に聞くのが一番手っ取り早いでしょうね・・・」

「・・・よっしゃわかった。橋元がおる可能性の高いドットクラブに向かう理由がもう一つできたで」

「・・・解っているとは思いますが、冷静にご対処くださいね」

「大丈夫や。心配あらへん」

引き締まった表情で言い切る宏の返答に頷くと佐恵子は再び目に力を集中する。

「それでも皆様にも、いきますわよ・・」

と言うと佐恵子の目がもう一度鈍く輝き、みんなには【冷静】のみを付与させる。

『おお』

という歓声が会議室にいる面々から上がる。

「では各自行動に移ってください」

はじめての付与体験にどよめく面々に真理が手を叩き促す。

「了解や!ほな、美佳帆さん行ってくるわ」

「ええ!宏も気を付けて」

菊沢夫妻のやりとりを確認した真理は佐恵子に近づき声を潜める。

「髙嶺は来るでしょうか?」

「わからないわ・・。張慈円を相手しながら・・、こないだの千原とかいうハムみたいな女がくると、厄介ですわね・・。髙嶺といえども、あれほどの使い手がそう何人もいるとは考えられませんが・・」

佐恵子は親指の爪を噛みそうになるのを堪えながら、先日の屈辱を思い出していた。

「加奈子・・。もし髙嶺のこないだの剣士が現れたら、張慈円はあなたに任せるわよ」

「で、でも!」

「わたくしでは勝てないって?」

「・・い、いえ・・、でも支社長も最初から出し惜しみ無しの全力で行くべきです」

「・・・こないだの女が来たら迷わずそうしますわ」

ふっくらとした唇に歯を立て苦々しそうに佐恵子は加奈子にはっきりと答えた。

「髙嶺が湾岸計画に横やりを入れてくるのは予想の範疇でしたが・・、対策らしい対策はあのスーツぐらいしかできませんもんね・・。佐恵子、寺野さんや斎藤さんにもあのスーツを支給しても?」

「ええ、もちろんですわ。サイズは・・・加奈子や真理用に作ったのであれば、なんとかサイズは合うかもしれませんね。男性用のはいまは試作品すらありませんからあきらめてもらいましょう」

「じゃあ、さっそく準備させてきます」

佐恵子の返答に真理は了解の意を示して準備に走る。

「・・さて、髙嶺が介入してくるとなると・・、本当に修羅場ですわ・・」

寺野麗華と斎藤アリサと話す真理の背中を見ながら、佐恵子は苦い表情で呟いた。

【第8章27話 作戦開始 終わり】第28話へ続く

第8章 三つ巴 28話 思わぬ再会


強調文pan style="color:#000000">第8章 三つ巴 28話 思わぬ再会

最近少し疲れ気味に見えていた菊沢美佳帆であったが、先ほどマンションで会った時は最近の不調ぶりを全く感じさせないほど元気な様子であった。

体調不良ではないのは喜ばしいのではあるが、それだけに心が痛む。

菊沢美佳帆は俺と粉川に対して快活な口調で見張りの苦労を労うと、久しぶりの休日に羽を伸ばすようにと餞別まで渡してくれた。

もちろん俺たちは断ったのだが、美佳帆はいつも無理聞いてもらっているし、一度出したものだから今更受取れないと言い張り、頑として受け取ってくれなかったのだ。

菊沢美佳帆から渡された封筒には3万円の現金と、メモ書きも同封されていた。

(勤務時間外なのにいつも無理聞いてくれてありがとう。私達と関わっていると警察内だと煙たがられちゃうのにごめんね)

小さなメモ用紙には、女性らしい字ではあるが達筆な文字が並んでいた。

「くっ・・菊沢さん・・・許してくれ・・俺は・どうしても桜子を無事取り戻したいんだ・・・」

悔恨の独り言は、繁華街の雑踏にかき消され誰にも聞かれることはなかったが、涙と鼻水で汚れた顔を、通り過ぎる人々が少し怪訝な顔をさせていることを、気にする余裕もなかった。

俺と同じく粉川卓也も同じように菊沢さんから餞別を貰ったが、なにか浮かない顔をしており、俺とは会話もなく先ほど別れたところだ。

こういう場合二人で酒でも飲みに行くのが通例だっただけに、今日のような別れ方はかなり珍しいパターンだ。しかし今は俺もそのほうが都合はよかった。

かつて一緒に柔道のインターハイで優勝した仲間ではあるが、今の俺はとても酒を飲めるような気分ではない。

攫われ今も凌辱されているかもしれない桜子のことが脳裏に甦り、かき消そうと頭を振る。

しょうがないんだ・・。と言い聞かせスマホを操作しいつもの通り、張慈円にメールを送る。



スマホの画面を確認した張慈円は、満足そうに口角を上げ、悪そうな顔がさらに悪さを増す笑みを浮かべてそういった。

「ボス、連絡が入ったんですか?」

「ああ、粉川と杉から連絡が入った。いま菊沢の嫁が一人であのマンションにいるのは間違いない」

張慈円は隣の6階建てのマンションを見下ろしながら、劉幸喜の質問に答える。

「ではさっき説明した通りだ。俺たちはここから飛び移りマンションの屋上から先に先行する。貴様らはマンションの入口から逃走経路を断ちながら2階の部屋まで上がってきてくれ。外はおれの手下がガッチリ固めているから逃げられる心配はないと思うんだがな」

振り返り、空きテナントとなっている雑居ビルの一室にいる面々に言う。

「承知致しました。・・しかし張慈円さま?今宵の獲物は女一人の捕物劇ですか?・・・少し、いえ・・・かなり大げさすぎると思いますが?」

腰に下げた大刀の柄を大事そうに摩りながら、タイトミニのスーツを着こなした美貌の女剣士がやや呆れた口調で張慈円に問いかけた。

「まったくだよ。しかも得物を殺さず捕らえろってのは・・どうにも珍しい依頼だねえ・・。それともこの写真の女は僕達が3人も必要なほど凄腕なのかい?」

張慈円が美貌の女剣士こと千原奈津紀の質問に答える前に、スクエアの眼鏡をかけ、真っ白なスーツを着こなしたした剣士が奈津紀に同調するような発言を重ねた。

奈津紀と同じように腰に刀を下げているが柄や鞘までもが白で統一されており、唯一鍔だけが黒鉄に煌めいていた。

「・・栄一さんと意見が同じなのは不本意ですが、張慈円さま、私どもが納得いく説明はございます?」

奈津紀は一応自分と同格同列にあたる白スーツの井川栄一に一瞬だけ目をやると、再度、張慈円に問いかけた。

「うーん・・。治療がほしいだけならそう言う依頼だけすればよかったんじゃない?そしたら私一人だけで、料金も安く済んだのに」

張慈円が答える前に、もう一人奈津紀の後ろに座っているやや小柄な女性が、明るい声でネイルの手入れをしながら口を開いた。

奈津紀と同じようにダーク色のスーツ、そして腰にはやはり大刀を帯びている。

スカートは奈津紀ほどミニではなく、膝が見える程度である。しかしサイドスリットの入ったタイトスカートからは白い肌が覗いており、艶めかしくはあるが、動きやすさを重視しているようだ。

張慈円は髙嶺の3人に向き直りゆっくりと口を開いた。

「重ねて礼を言う。治療する人数が一人増えたというのにな」

張慈円はそう言うと、奈津紀の後ろに座る小柄な女性に僅かに頭を下げた。

「ぜんぜんおっけ。足手まといになられて妙なことになるよりよっぽどマシだからね。それに、二人も三人も大差ないから」

椅子に座ったまま手をパタパタと振り、目も合わせず爪につけた液体を乾かすように息をふぅーと拭きながら張慈円に軽い口調で返す。

裏社会にすら畏怖の対象とされている髙嶺の者とは思えない見た目の童顔で可愛らしい顔立ちをした女剣士が、ボスにすら目も合わせずにそう言った軽い様子に、劉幸喜は少しばかりムッとしてしまうが、ボスが文句を言ってないので、仕方なく黙っていることにしたようだ。

「チビ!オマエスゴイ!イタミガヒイテ、ウゴケルヨウニナッタ!!カンシャスル!!ソレニナンダカチョウシイイ!チカラガドンドンワイテク・・」」

「・・あのさぁ?!・・わたし、南川沙織っていうの。それにあんたがでかいだけだからね?・・あと次チビって言ったら殺すからね?」

チビと言われて、すかさずアレンに訂正いれた南川沙織の目には僅かに殺気が籠っていた。

傷が完治し、身体の内から湧き上がってくる不思議なパワーの万能感に酔いしれていたアレンだったが、童顔小柄な女剣士の殺気に当てられ、冷水を浴びせられたように身体を竦ませた。

「ワ、ワルカッタ、ミナミカワ!ユルシテクレ!」

「ちっ、呼び捨てかよ」

アレンと沙織のやり取りが面倒なことになる前に、話を進めたい奈津紀はふぅとわざとらしくため息をつくと、張慈円に目で続きを話すように催促する。

「・・菊一事務所だけを相手にするわけにはいかなくなった・・と言うことだ。本国からの人員も間に合わん」

「宮コーですね」

「そのとおりだ」

「いいでしょう。では条件は話した通り・・。前金は入金確認してますわ・・それと、魔眼は我らがいただく・・と言うことで宜しいですね?」

「構わない魔眼はくれてやる、その代わり・・湾岸開発地のテリトリーは3割・・・、香港に割譲してもらうぞ?そちらこそ良いのか?」

「それで問題ありません。御屋形様のお考えでは、大陸とのつながりがある方が利益は大きいとのことです。御屋形様は約定されました。破ることはございませんのでご心配なきよう」

髙嶺六刃仙6名のうち3名も雇うほどの大金、期間は宮コーが湾岸開発を完成させるまでという条件付きの契約ではあるが、今回の菊沢美佳帆拉致に関して言えば、過剰な戦力である。

奈津紀はそこまでの大金を払った香港三合会新義安の財力は侮れないとは感じつつも、張慈円のほかの思惑について推測が及んでいた奈津紀は率直に張慈円に質問を投げかけてみる。

「もしかして、我らの実力をお疑いですか?私の力量は先日わかったはず・・・。栄一さんや沙織の実力もこの際目にできれば・・というお考えなのですか?もし、そうならば張慈円さま・・・案外・・・策略家ですね。そんな駆け引きを労さなくてもクライアントとしての要求であれば、お応えせざるを得ませんが・・・?」

「・・・ふん・・、では要求だ。貴様の強さは信頼しているが、後ろの二人は俺にとっては未知数だからな。菊沢美佳帆も能力者で鉄扇を使った軍配術を使うと聞く。仮にも髙嶺だ。疑うわけではないが、そちらの二人の手並みを見せて頂きたい」

張慈円は奈津紀のことを心中で「やりにくい女だ」と悪態をついたが、それは口には出さずクライアントとして当然の要求として奈津紀に告げた。

「・・ふーん・・治療だけだと退屈だから別にいいけど」

「・・・髙嶺六刃仙に数えられる僕らの実力を疑うとは心外だねえ・・・、奈津紀さんの実力は見たんだろ?・・僕らも同列だよ?・・・まったく・・僕らの評判は香港まで届いていないのかい?」

張慈円のほうを見ずに指のピンクに着色したネイルの具合を確認しながら、気のない返事を返す南川沙織と、南川沙織とは対照的に張慈円に向かってわざとらしくため息をつき大げさな身振りで落胆するふりをみせながら言う井川栄一であった。

「承知しました。栄一さんと沙織を先行させましょう。私は後ろで見学・・失礼、後詰をいたしますわ」

奈津紀は顔には出さないが面倒臭いなと思いながら張慈円に答えたのであった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ええ・・ありがとうございます・・ええ・・はい・・私は・・・大丈夫ですわ・・。ええ、そちらも・・・お気をつけて・・はい・・豊島様こそ・・ふふ・・では、そろそろ・・・・ええ・・私も・・ではまた後で・・・ふふふ・・」

皆から背を向けて、小声で通話していた宮川佐恵子は、通話中に緩みきった表情を引き締め直すと大塚マンション組の面々に振り返る。

「ひっ!」

振り返った佐恵子のすぐ目と鼻の先には天然こと斎藤アリサの顔があり、佐恵子は素っ頓狂な声を上げてのけ反ってしまった。

「ねね!社長!今の和尚?!また後で会うの?!」

驚いた表情のまま仰け反っている佐恵子に、アリサはさらに詰め寄って追い打ちをかける。

「な、なんですのあなた?!聞いてらしたの?!」

佐恵子とアリサのやり取りを少し離れたところで見ていた真理と加奈子は耳を赤くして、必死で笑わないようにして耐えている。

「なるほどねぇ・・和尚かぁ~・・・朴念仁みたいなふりしてるのに手が早いなぁ~・・まったくむっつりエロ坊主なんだから・・、しかも合併した相手の社長を狙うなんて大胆よね・・。あ~あ・・・話しぶりからしても、もう仲良しみたいだし・・・」


姫こと寺野麗華も腕を組み一人で納得したように目を閉じてうんうんと頷きながら呟いている。

「ちょっと・・!豊島様のことそんな風に言わないでくださる?!」

顔を赤くさせた佐恵子がアリサを押しのけ麗華の鼻の頭に人差指を押し付け詰め寄る。

「え~?!でも支社長。私のほうがずっとずうっと和尚との付き合いは長いんですよ?高校時代からの付き合いだから・・・そうですねえ、かれこれ20年の付き合いですね。事務所の面子はほとんど高校時代からの付き合いだし・・そう言えば和尚も色々あったんですよ?・・・・私、支社長より和尚のことずっとよーく知ってますよ?ふふふ・・・」

佐恵子に詰め寄られた麗華は涼しい顔で目を逸らし、佐恵子の手を払いながら、勝ち誇ったような仕草と表情で佐恵子の反応を楽しむように言葉で煽る。

「っ・・!・・な、なんですって!!」

歯並びの良い白い歯を食いしばり、顔を更に顔を赤くさせた佐恵子が何か言い返そうと口をパクパクしていたが、とっさに真理と加奈子が二人を引き離す。

「ま、まあまあ・・さ、佐恵子・・いまはそんなことをしている状況では・・。そろそろ時間よ。行きましょう?」

真理は腕時計を見て時間が迫ったことを告げながら佐恵子に促す。

「・・む・・・、え、ええ・・そうですわね」

言い返したかったが、そういう突っ込まれ方になれていない佐恵子は上手く麗華に返せず、渡りに船とばかりに真理の言葉に従った。

「じゃ、じゃあ私が先に行くわ。支社長は私の後にお願いします」

佐恵子がそう言ったタイミングですかさず加奈子もみんなに聞こえるように言う。

佐恵子たちがいるのは、大塚マンションの3階の角部屋である。いま、菊沢美佳帆と水島喜八がいるのはマンションの2階の角部屋、ちょうどこの部屋の真下である。

美佳帆が2階の大塚さんの部屋に来るずいぶん前からこの空部屋に先行して待機していたのだ。

美佳帆が杉誠一と粉川卓也を送り出し、部屋の中をクリーニング、いわゆる盗聴機や盗撮機が無いことが確認できたら、ベランダの床にある避難経路の床扉を開け、タラップを使って真下の部屋のベランダに侵入する手はずになっている。

美佳帆からのクリーニングが終わった連絡は先ほど真理に届いていた。

加奈子、佐恵子、アリサ、麗華、真理の順番で3階ベランダのタラップを降りる。

「あ、あの・・寺野さん・・。佐恵子はああいった煽り耐性全くないの・・。0なの。もう勘弁してあげてね・・」

最後に残った真理は、麗華がタラップを降りようとして真理と向き合ったときに、真理は控えめな困った顔で麗華にそう言った。

「えへっ・・ごめんね神田川さん。支社長さんが可愛い反応するからついからかっちゃった・・。あんなに顔を赤くさせて真面目な顔で・・くださる?!なんて言われたら・・・ぷっ・・ごめんなさい。・・・真理さん鋭そうだから気づいたかもしれないけど、哲司のこと私もずっと気になってたから、ついね・・・。でも、きっともう言わないから、安心して。・・・相手が宮川支社長なら私も諦めつくと思う・・」

真理にそう言われた麗華も、先ほどの佐恵子とのやり取りを思い出したのか少し吹き出していたが、長年心の奥底で燻っていた思いを真理に告げ一瞬だけ寂しそうな顔をした後、いつもの笑顔にもどり素直に謝って真理にウインクし、真理の返答を待たずタラップを滑り降りていった。一瞬だけ見えた麗華の目には涙が浮かんでいた。


2階の部屋に入って美佳帆と無事再開した面々は一様にひとまず笑顔で再開を喜んだが、すぐに水島に暗示をかけるべく佐恵子が水島を監禁している部屋へと急ぐ。

「・・・ほぉおお?こりゃまた別嬪さんだ。初めて見る顔ですねえ。クソ探偵事務所の雌どもも良い目の保養にはなりますが、これは新しい趣向ですなあ」

扉を開くなり、椅子に座らされ縛られた中年のオールバック狐目の男が、口笛を吹きながら佐恵子たちを頭の先からつま先まで観察し独特の口調で感想を漏らす。真理と加奈子も同じくじろじろと無遠慮に厭らしく眺めまくる様子に、加奈子は思わず両肘を掴んで身震いするようなポーズをとってしまう。

「うう・・気色悪い人ですね」

加奈子は素直に水島喜八の感想を言う。

佐恵子の目には水島喜八の纏った好色なオーラが見えていたが、そういう目を向けてくる男は少なからずいたので、そう言う意味では先ほどの麗華の口撃よりは耐性があった。

「・・・この方が水島さんですわよね?」

水島の視線を無視して振り返り後ろにいた美佳帆に一応確認を取る。

「ええ、そうです」

美佳帆の答えを聞くと佐恵子は水島に向き直り、水島と距離を詰め、顔を水島に近づける。

「おおおおお?!近すぎやしませんかお嬢さん?ほら!私と口付がしたいのなら遠慮はいりませんよぉ?さあ!・・まぁ、あなたみたいな熟れ切ってない小娘でも一応女のようですしねえ!おや?あなた!・・・良い匂いしますねえ!」

いつも杉や粉川といった屈強な柔道男たちに見張られていた水島は、いつもと違った人物の登場のいきなりの行動に妙なテンションになり興奮していた。

自分に顔を近づけてきた初対面の女の匂いを嗅ごうと鼻をクンクンさせている様子は、極めて異常な様子に見え、加奈子も真理も警戒しつつもドン引き顔である。

「・・・気持ち悪いですわねえ・・一気に気が進まなくなったけど・・そうも言ってられません・・・仕方ありませんわ・・・【魅了】!」

佐恵子は水島喜八の正直な感想を口にすると、目に力を集中させ力を水島に対して開放する。

「うぉ!・・ぉぉぉ・・ぉ・・!・・」

佐恵子の目が妖しく光り、水島の目にその光が吸い込まれていく。

水島は一瞬眩しそうに眼を閉じようとしたが、抗い難い力により目を閉じることができず、見開き光を吸い込み続ける。

「ねえ水島さん、起きてくださる?」

光を吸い込みつくし、茫然としている水島に向かって佐恵子が口を開く。

「ええ!ええ!起きてますとも!あなたがいらっしゃってるというのに寝てなんかいられませんよ!」

今の水島は佐恵子のことを10年来の親友と思って話をしているのだが、佐恵子は普段の水島を知らない。

水島は普段から異常行動や言動をするせいで、美佳帆から見れば、そこまで変化はないように見えていた。

「これって・・・、何か効果あったの?」

「佐恵子の魅了です。・・いま水島さんは佐恵子のことを親友だと思ってます」

美佳帆は、訝し気に小声で真理の耳元で囁くと真理も小声で答えた。

「そ、そうなの?水島にこれと言った変化はないように見えるんだけど・・・」

「能力者ではない人が佐恵子の力に抵抗するのは無理です・・・。絶対に効いてますよ」

目をギラギラと輝かせ、無駄に大きな声で会話をしながら、相変わらず佐恵子のことを厭らしい目つきで舐めるように見ている水島を美佳帆は、普段とあまり変わらないわねえ、という感想を持って眺めていた。

「はい・・。そうですわ。ですから、警察に行って自首してほしいのです。」

「わかりましたよ。貴女がそうおっしゃるならそれが一番いいのでしょう!それにはこの戒めを解いていただかなければいけませんがよろしいですか?」

美佳帆と真理が会話している間に、佐恵子と水島の話はあり得ないほどスムーズに進み、水島が独りで警察署まで出頭して洗いざらい過去の罪を話すということでまとまっていた。

「ちょ、ちょっと!支社長!そんな言葉嘘に決まってます!解いたら暴れ出しちゃうわ」

佐恵子が水島を拘束している手錠を外そうとしていると、美佳帆は慌てて声を掛けた。

「大丈夫ですわ。ねえ、水島さん」

「もちろんです!・・デカ尻の菊沢美佳帆さん、あなたを目と妄想で犯せなくなるのは残念ですが、もうあなたの妄想は散々しつくしました。知ってましたか?この部屋からだとあなたがシャワーを浴びている音が聞こえるんですよ・・。シャワーを浴びる以外の音もしてましたねえ!・・・ですが今は、この一番の親友である・・・ええっと」

「宮川ですわ」

「そう!私には親友の宮川さんがいますしねえ。彼女に嘘なんて言うはずないじゃないですか!」

ギラギラした目で言うかみ合わないことを言う水島に呆気にとられる美佳帆。

「美佳帆さん、大丈夫です。完全に効いてますから・・」

水島と佐恵子のやり取りを見ていた美佳帆に真理がそう声をかける。

「・・・一番の親友の名前すら知らない状態だけど大丈夫なのかしら・・・?」

自慰の時の声や音まで聞かれたのかしらと内心で心配しつつも、顔には出さず美佳帆が真理に言うでもなく独り言のように呟いた一言に、真理が笑顔で頷く。

「大丈夫です」

真理と美佳帆がそういうやり取りをしている間に、佐恵子は水島の拘束をすべて解いてしまった。

「うーん!久しぶりに身体が思い切り伸ばせますねえ!宮川さん!親友である私にハグしてディープキスしてもいいんですよ?・・そうでしたか。これは気づかずに申し訳ありません!大勢の前で照れているんですね?照れているなら私から・・」

水島は両手を上に伸ばして背伸びをしたり、首をコキコキと鳴らしたりしているが、暴れ出したり逃げ出そうという素振りなく、佐恵子に両手を向け今にも抱き着きそうな様子で佐恵子に近づいていく。

「あなたのような人からそのような言葉、怖気が走ります。冗談じゃありませんわ。それより水島さん。善は急げと言いますしさっそく行ったほうがいいですわ。ここにいる菊沢美佳帆さんから逃げるように慌てた様子で飛び出して走っていくのがいいですわ」

「そうですか・・残念ですが・・。貴女がそう言うのです!そうさせてもらいます!」

佐恵子の手厳しい拒絶の言葉にもめげず、促されるまま水島は素直にそう言うと、監禁されていた部屋からリビングに出てきて、呆気にとられた麗華とアリサを好色な目で見ながらもしっかりとした足取りで玄関に向かって歩いていく。

「では、行ってまいります!」

「ごきげんよう」

佐恵子は笑顔で水島に手を振ると、それに対して水島も右手を軽く上げると、扉を勢いよく開け靴も履かずに何かから逃げるように飛び出し、そのまま走って出ていってしまった。

「・・・・これで、おそらく水島さんは警察署に到着することなくこの世を去ると思いますわ・・・。普通に開放したところで、水島さんも命を狙われてるぐらいの想像はできるでしょうから、出ていかないでしょうしね・・。後味の良いものではありませんが、仕方ありません」

「なんだか・・・支社長が言った通り逃げ出したように出ていきましたね。本当に警察署に・・・?大丈夫かしら・・・」

佐恵子の能力で行動を抑制したとは言え、佐恵子の【魅了】による操作を初めて見る美佳帆や麗華、アリサは本当に警察署に向かって行ったのかは疑問ではあった為、美佳帆の感想は3人の総意の感想であった。

しかし、素直に警察署に向かったとしても水島は到着しないだろう。

ほぼ確実にこのマンションが敵の目に監視されていることを考えると、水島が独りで部屋から出てきたことはすぐに察知されてしまい捕らえられるからだ。

「私たちは真理の能力で危険を回避して、マンションを監視している目を掻い潜って3階の空き部屋に潜入はできましたが・・・・真理・・。真理の能力に引っかかった警戒網って不自然なほど多かったのでしょ?」

「はい、ここのマンションは完全に監視されていますね。間違いありません。水島さんはすぐ敵に捕捉されるでしょう・・」

佐恵子の問いに真理はきっぱりと即答した。

「さっきの飛び出し方で、敵は菊沢美佳帆を水島が自力で振り払い、逃げ出した・・・と考えるでしょう。でも、すぐに捕まりますわ・・・。そして・・来ますわよ・・。ここには美佳帆さましかいないと敵は思ってらっしゃいますからね・・。加奈子は玄関。わたくしと真理と美佳帆さまはリビング。麗華さまとアリサさまは外から見えないようにリビングのベランダ側を警戒してください」

敵とは言え、今日初対面の水島に確実に死ぬような行動暗示をかけたことで、少し浮かない顔の佐恵子ではあったが、すぐに来るであろう驚異に対して的確に指示を飛ばす。

「そんなにすぐ来てくれるかなぁ・・」

「どうかな・・・。でも、このマンションって四六時中敵に見張られてたってことは・・来るんじゃない?・・・それに今更ながら見張られてたって知っちゃうとなんだか気味が悪いわね・・・。アリサや私の顔も敵にばっちり割れてるってことよね・・」


アリサが外から姿が見られないようにリビングの床に屈んだ状態で誰ともなく呟くと、同じような姿勢で待機している麗華がアリサに向かって言う。

「菊沢事務所員の全員の顔は割れてますよ・・・。残念ですが、それは間違いありません。ですから、本社に皆さんに引っ越してもらいましたのもそのためです」

同じようにリビングの床で屈んだ真理が二人に言う。

「そっか・・・スリルとバイオレンスな毎日が始まっちゃうってことね・・・」

「麗華ちゃん!私達で千尋ちゃんと雪ちゃんの分までフォローしようね!」

「ええ!もちろんよ!香港マフィアだろうが髙嶺だろうが、私たちにケンカ売ったこと後悔させてやるんだから!」

屈んだままの状態で麗華とアリサの会話を聞きつつ、美佳帆は不調ながらも【百聞】を限界まで広げ展開していた。

今まで何かと敵視していたお嬢こと伊芸千尋のことまで気に掛けたような麗華の素振りに、美佳帆は満足そうに目を細めて頷くと自分の能力に集中する。

もし、美佳帆が本調子であれば隣の雑居ビルにいる張慈円や髙嶺一派の動向にも気づいたのだが、今の美佳帆は半径20mほどしか【百聞】を展開できない。

同じく真理も【危険予知】を最大半径まで展開し警戒していたのだが、まずは美佳帆が人差指を上げ、皆に注意を促す。

「あれだけ大きな音で走っていった水島の足音が・・1階のエントランス付近で消えたわ・・!ん??・・上からも?・・ほとんど足音はさせてない・・。歩幅は一定・・・。素人じゃない足運び・・。降りてきている・・。上から3人・・下は・・たぶん2人・・・?下からも上から来てるわ・・!素人の足音じゃない!」

美佳帆がボリュームを落とし、かろうじて皆に聞こえるように緊張した声で【百聞】で拾った情報を伝える。ほかのマンションの部屋の雑多な雑音も聞こえてくるが、本調子ではないため範囲は狭いが、佐恵子に施された【冷静】と【沈着】の効果は【百聞】の範囲内に置いては十分に発揮されているようで、聞き分けたい音は鮮明に聞き取れた。

「5人ですか・・多いですわね・・・。張慈円さまと劉と呼ばれていた方・・・それと、その人数・・・まさか髙嶺も・・?・・加奈子!先手必勝よ?準備よろしくて?」

佐恵子も声を押し殺し、全員に【拳気】【疾風】の付与を飛ばす。

この間の千原奈津紀のような手練れまで来ているかもしれないと思うと、嫌が応でも緊張は高まる。

『来たわ!!』

「加奈子!!これは・・斬撃!!気を付けて!!」

佐恵子が付与を全員に飛ばした直後に、来たわ!!の声が真理と美佳帆で見事に重なった。

真理が言い終わった数秒後、ずばっ!という音がやけにはっきりと響き、横に切り割れた扉と白い何かが勢いよく部屋に飛び込んできた。

「はぁぁああ!!」

気合の発声と同時に気配を消すことを止め、能力を100%発動し、視力強化もした加奈子は斬撃で切り飛ばされた上下二つに割れた扉を左手でいなし、踏み込む脚で踏み落としながら、刀を振るう白いスーツ姿の男にカウンターで渾身の崩拳を突き出す。

加奈子の崩拳を人間がまともにくらえば確実に命はない。
しかし、加奈子は容赦のない一撃を迷いなく放った。なぜなら、一瞬だけの動きしか見ていないが、斬り込んできた曲者は相当な手練れであり、只者ではないことがはっきりと肌を通して伝わってきたからである。

ビシーーーーン!!

加奈子の直感が間違いなかったことを証明する音が鳴り、耐刃性能をもったグローブで包まれた拳が硬質な衝撃に阻まれる。ほとんど完璧なタイミングで放った崩拳ではあったが、白スーツの男は振り抜いた白刃を、柄を器用に持ち替え、高速で刃を翻し、膝で剣先の腹と左手を添えて刀身を支え、加奈子の拳を刀の腹の中心で受け止めたのだった。

ただ、手練れの曲者は、さすがに拳の勢いは止めきれず白い塊となって部屋から吹き飛ばされるように共用廊下に吹き飛び、壁に激突する。

「いってええ!!・・・ちくしょう!・・・僕のせっかくの華麗な登場シーンをぶち壊しやがって!」

思いもよらない攻撃に辛うじて防御が間に合ったものの、井川栄一は加奈子の崩拳に吹き飛ばされ背中を壁で強打してしまい、白スーツの汚れを手で払いながら、油断なく立ち上がると刀を握りなおした。

「んん??・・おや?これは懐かしいねえ!あの時より髪が伸びてるけど・・・・加奈子じゃないか。また会えて嬉しいよ・・・。僕のこと忘れちゃいないだろ?・・・忘れるわけないよねえ・・・ふふふ、僕に負けたらまた・・」

「げぇ!!・・あんたは・・やっぱり生きてたのね!・・・この変態!変な横分け頭!・・・ダッサい癖に恰好つけてるじゃないわよ!ブ男!!・・今の今まであんたのことなんか忘れてたってのに!!・くっそー!・・最っ低!!」

刃と拳を交えた二人は1歩の距離で互いに構え、対照的な表情で向かい合あった。意外な場所での再開に一人は嬉々として、もう一人は心底嫌そうに言葉を吐き出した。

【第8章 三つ巴 28話 思わぬ再会 終わり】29話へ続く

筆者紹介

千景

Author:千景
訪問ありがとうございます。
ここでは私千景が書いた小説を紹介させて頂きたいと思います。
ほぼ私と同年代の既婚者が主役のものになるかと思います。登場人物同士が
つながりを持っていて別の物語では最初の物語の主人公が脇役を務める様な
小説全体につながりを持たせ想像を膨らませていけたらと思っております。
どうぞ宜しくお願い致します

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